『EVOL(イーヴォー)』ドラマ化記念 世界を魅了するカネコアツシの新たな挑戦

 代表作には『BAMBi』『SOIL』など日本国内はもちろん海外でも評価の高い漫画家・イラストレーターのカネコアツシによる『EVOL(イーヴォー)』。全世界注目のダークヒーロー・ジュブナイルものの本作は、2023年11月3日からDMM TVオリジナルの実写ドラマの放送が始まりました(DMM TVでは同作の独占見放題配信を実施中!)。今回はドラマ化を記念して、カネコアツシ先生にDMMブックスが独自インタビュー! 『EVOL(イーヴォー)』制作秘話から、影響を受けた映画や漫画手法のアレコレまで深いお話が聞けたので、ぜひ最後までご覧ください。

EVOL (イーヴォー) 1

EVOL (イーヴォー) 1

人生はつまらない。命はくだらない。希望は死に、夢は潰えた。だから僕達は、世界を殺す。==その日、世界に絶望した子供達の命は終わりを迎えるはずだった。不幸にも自殺は未遂に終わり、一命を取り留めた3人の少年少女。病院で目を覚ますと彼らの身には、不思議な「異能力」が宿っていた。その力は「ヒーロー」と呼ばれる、血統でのみ継がれる「正義の味方」しか持ち得ないはずのものだったーー。==居場所のない僕達が、世界に叛逆を始める。新感覚ダークヒーロー・ジュブナイル、1・2巻同時発売。超厚【276ページ】で開幕。==●カネコアツシ ビームコミックス好評既刊●[デスコ]全7巻[Wet Moon]全3巻[SOIL]全11巻[BAMBi remodeled]全6巻●コミックビーム 公式ツイッター●@COMIC_BEAM

あえてトレンドをやろうと決めていた

カネコアツシ先生近影

――『EVOL(イーヴォー)』はヒーローが世界を滅ぼそうとするという作品というですが、今までのカネコ先生の作品の中でもキャッチーな題材に感じました。本作の構想に至った経緯を教えてください。

カネコ(以下、敬称略): 実は、ヒーローものという設定は後の方から出てきたんです。元々は、絶望した子供たちが「自殺」という形でどん底まで落ちて何かを拾って戻ってくる……そういう話を考えていました。子どもたちの存在の対比として、いかにもなヒーローが登場したら面白いなと思いました。
一方で、その頃ちょうどマーベルの映画とかが流行っていて。僕は新しい作品を書く度に、前と違うことをやろうといつも思っているのですが、次はあえてトレンドをやってみようかなと担当編集者の方にお話ししました。今までやったことがないジャンルで、新しい挑戦というか自分に負荷をかけてみたい、そんな思いで始めました。

――これまでの作品と比較してなにか意識されたことはありましたか? ?

カネコ: 実は、今回はあえて連続ドラマを作ろうって最初から言ってたんです。ドラマ化されることは想定していませんでしたが、ドラマっぽさはイメージしていました。なので、一つ一つのエピソードを丁寧に描くことなどをいつもより意識しています。そして今回実際にドラマ化のお話しをいただいて、すごくうれしかったです。

――撮影されたドラマ本編はご覧になりましたか?

カネコ: 2話まで編集段階のものは見ました。素晴らしかったです。

――映像を見て、更に作品へのイメージが膨らんだりとかはあるのでしょうか?

カネコ: 「この手があったか!」とか「こうすればよかったな」とか、思うことは多々ありますね。

読者には「自分のために描かれた話だ」と思ってほしい

――今回の主人公たち3人のキャラクターは、どのように作り上げられたのでしょうか?

カネコ: 傷ついた子供たちの話なので、今世の中で起きているさまざまな矛盾や残酷な出来事を、彼ら3人を通して例として挙げているような形にしました。
基本的に僕は、「これは自分のために描かれた話だ」と読者に読んでほしいなと思っています。誰しもが思い当たるような部分がどこかにある、という思いを3人に込めています。

――たしかに、愛らしくどこか共感を覚える主人公たちですね。

カネコ: 今までの僕の作品の主人公は、人間離れしたようなタイプが多かった。普通の人にはとてもできないことをやっているような……それが心地よさや痛快さに繋がるような主人公が多かったんです。今回は等身大なので、3人とも描いてて愛おしいですね。
本当は、もっとストレートに悪者の階段を登って巨大な悪者になる予定でした。でも、 描いてるうちに、この子たちと一緒に悩みながら描かなきゃいけないなと思って展開が変わりました。

3人の主人公 『EVOL(イーヴォー)』第2巻 38ページ

(3人の主人公 『EVOL(イーヴォー)』第2巻 38ページ)

――最新刊では、どんどん魅力を発揮するライトニングボルトにも魅了されます。彼は1巻から苛立ちや苦悩が描かれていますが、どんなアイデアから生まれたのでしょうか。

カネコ: 最初はヒーローのクリシェみたいなものを想定していて、初期のプロットではアカリに殺される予定でした。もう一人の主人公に思わせておいて、3巻あたりで急に死んでしまうような展開を考えていました。構想が進むにつれ、3人以外のところでもっと話を膨らませられる存在だと思って、生かすことになりました。

苦悩するライトニングボルト 『EVOL(イーヴォー)』第6巻 109ページ

(苦悩するライトニングボルト 『EVOL(イーヴォー)』第6巻 109ページ)

映像的なコマ割り手法について

――カネコ先生の作品には映画的なコマ割りを感じますが、大胆に場面も切り替わっていきますよね。

カネコ: 僕の中では、多分すべて頭の中で映像になっています。僕のコマ割りは、カット割りに近いというか、動きが繋がるように作ってるつもりです。そこを意識することでリズムやスピード感を生んだり、流れるように読めるようにしつつ緊迫感のある演出を心がけています。

――群像劇的な描かれ方も印象的です。『EVOL(イーヴォー)』でも、ノゾミの視点からだけでなくライトニングボルトの視点に移ったりと、話毎に視点が変わりますよね。

カネコ: 元々群像劇は好きですね。映画だと、ポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』とか。一回バラバラになったものがまたどこかで繋がって、最後にこうなるのか、みたいな展開は好きです。

――群像劇だけなく、同時進行で話が色々と話が進行する描き方もされています。

カネコ: 一つの物事には、実はいろんな見方や解釈があるじゃないですか。それを別々の視点から描くやり方も好きです。影響を受けている作品だと、リチャード・フライシャーの『絞殺魔』。この映画は、 襲いに行く殺人鬼と、これから襲われるであろう女性が部屋で着替えるシーンを、画面を3分割・4分割にすることで同時に映したりします。その間にも平和な外の景色を映したりとか……多面的な視点を楽しめます。

『EVOL(イーヴォー)』ではスッカスカの絵にしたかった

――月や穴、太陽、日本国旗と円形のモチーフが印象的でしたが、意図はあるのでしょうか。

カネコ: 意識的に円をモチーフとして扱っていたわけではないのですが、画面全体をデザイン的に考える癖が付いています。例えば月を描くにしても、画面のポイントとして映えるなと思って描いています。

――雨のシーンやシーツがアップするシーンなどで、ザラザラの線で表現されているように感じたのですが、どのように描かれているのでしょうか?

カネコ: メディバンペイントのペンの「にじみ」という機能を最大にしています。デジタルっぽくない感じというか、計算外の効果が出るので使っています。
特に今回は、スッカスカの絵にしたかったんです。前の作品まではだんだん描き込みが増えていって、ちょっと画面がうるさいなと自分で思っていたので。『EVOL(イーヴォー)』では、線の少ないシンプルな印象を与えたいですね。でも時々それを忘れて、アクションシーンとかをつい描き込んじゃうこともあるので、 イカンイカンとまたシンプルに戻すみたいなことをしています(笑)。

シーツに包まるノゾミ 第2巻 100ページ

(シーツに包まるノゾミ 第2巻 100ページ)

――今後の作風も、シンプルな線が増えていきますか?

カネコ: そうですね。シーツのシーンみたいに本当に少ない線でフォルムを出すみたいな、シンプルな絵が今は好きです。多分今は、そういう方向に向かっていくと思っています。

――個性的な作風を確立されているカネコ先生ですが、他に意識していることはありますか?

カネコ: 読者の読みやすさは考えています。ちゃんと正確に伝えることよりも、別の解釈をされないように、間違って伝わらないことが大事だと思っていて。個性的・事件的な作家を目指すのであれば、より伝わるように気をつけないといけないと意識しています。

――モノローグはあまり使わないですよね。

カネコ: 意識して入れないようにしています。なるべく必要最小限のセリフで、且つセリフの一つ一つにいろんな意味が内包されているのが理想ですね。

読者・視聴者の皆様へのメッセージ

――最後に読者の方やドラマの視聴者の方にメッセージをお願いします。

カネコ: 『EVOL(イーヴォー)』のドラマに関わってくれている人たちは、みんな作品を好きでいてくれて、すごく情熱を持って作ってくださっています。本当に幸せなことです。きっとファンの皆さんや視聴者にもその情熱が伝わると思いますので、ぜひみなさんも一緒に楽しんでください!

DMM TVでドラマ独占配信中!

 今回インタビューしたカネコアツシ先生の『EVOL(イーヴォー)』を原作にしたDMM TVオリジナルドラマ、「EVOL(イーヴォー)〜しょぼ能力で、正義を滅ぼせ。〜」は、DMM TVで11月3日(金)より配信中!

DMM TVオリジナルドラマ「EVOL(イーヴォー)〜しょぼ能力で、正義を滅ぼせ。〜」バナー画像

関連作品

BAMBi 1

BAMBi 1

5億円の賞金をかけられたピンク色の髪と銃を持つバンビ。誘拐した少年と共に旅を続ける彼女に次々に襲い掛かる追っ手。ふたりの旅路の果てに待つものとは……? ピンク色の髪とピンク色の銃を持つ殺戮処女・バンビを巡るロードコミック第1巻!

SOIL 1

SOIL 1

とある地方都市のベットタウン『そうるニュータウン』。穏やかなその町で停電が起きた夜、親子三人の一家が消えた。その失踪を契機に、異様な事件が続発し、平穏な町の裏側に潜む狂気や悪意が次々と表に上がってくる…空前絶後のソリッド・シチュエーション・ミステリー。

関連記事

 今回の記事でご紹介した漫画が好きな方は、以下の記事もおすすめ!
実写化記念!『ケンシロウによろしく』 作者ジャスミン・ギュ独自インタビュー
普通のラブコメと一線を画す『こういうのがいい』作者・双龍の漫画表現の極意

人気の記事