「生穴る」むちまろを漫画家にした編集者が、現代最高の下ネタ漫画に込めた信念

 週刊少年マガジン編集部の編集・平塚さんは、累計400万部突破のヒット作『イジらないで、長瀞さん』(作・ナナシ)や「次にくるマンガ大賞2023」のコミックス部門1位の『生徒会にも穴はある!』などの人気作を続々輩出してきた名編集者。今回は、DMMブックスどくしょ部が平塚さんに独自インタビューを実施。「長瀞さん」「生穴る」の連載秘話や、その裏に込められた哲学や思いをあますことなく伺いました。

好きなことをやっていても、ちゃんと考えて動かないと無駄になる

――平塚さんは現在、週刊少年マガジン編集部に入って8年目と伺っています。講談社入社前はどんな学生時代をすごされていましたか?

週刊少年マガジン編集平塚(以下平塚):中学~高校は東京の有名進学校に通っていました。ただ、その6年間、どこかで聞いた「好きなことをやっていれば、絶対将来何かにつながる」という言葉を真に受けて遊び倒し、信じられないくらい勉強していなかったです。具体的には、高3の夏に受けた模試でbe動詞がわからなかったくらいに……。でも、そんな惨状でも「好きなことを本気で沢山やってきたのだから、受験もなんとかなるだろう」と、のんびりしていたら見事に全ての大学に落ちました(笑)。好きなことをやっていても、ちゃんと目標を持って動かないと無駄になると痛感しましたね。

――苦い経験ですね……。その後、大学時代に講談社への入社を目指した理由は?

平塚:受験の失敗を受け、就職活動ではちゃんと目標を決めようと思いました。それで、自分が役に立てそうな仕事は何なのか、大学の早めの時期から考え始めまして……。その結果、総合出版社で編集者になれたら嬉しいなと!!  絵本や漫画はもともと大好きでしたし、当時は同人誌やニコニコ動画、アニメなどにもドハマりしていましたので。他にも、昆虫採集や園芸など理系寄りの趣味が多かったこともあって、漫画や図鑑、ブルーバックスなどの制作に携われたら最高だなと思い講談社に入社しました。

むちまろ先生による平塚さんイメージイラスト

むちまろ先生による平塚さんイメージイラスト

――ちなみに、子どもの頃はどんな漫画を読んでいましたか?

平塚:父親がかなりの漫画好きだったので、幼い頃からいろんな作品を読んで過ごしていました。諸星大二郎先生の『栞と紙魚子』や、大友克洋先生の『AKIRA』、つげ義春先生の短編集など、めちゃくちゃ読み返していたのを覚えています。
特に記憶に残っているのが士郎正宗先生の『攻殻機動隊』第1巻で、主人公・草凪素子のカッコよさとエロさに、小学生の自分は凄まじい衝撃を受けました。その時から、漫画が頭の中から離れなくなった気がします。

――週刊少年マガジン編集部に配属されてから、編集者としての経験はどのように培われてきたのでしょうか?

平塚:新人の頃は、主にサブ担当(チーフ担当の補助的なポジション)に就いた作家さんから勉強させていただきました。作家さんへの向き合い方や、ストーリーを構成していく手順、週刊誌で連載を続けていくために必要な姿勢など、基本的なスキルはほぼ全てこの頃お世話になった作家さんに教わっています。
特に『炎炎ノ消防隊』大久保篤先生、『リアルアカウント』渡辺静先生、『川柳少女』五十嵐正邦先生、『彼女、お借りします』宮島礼吏先生には、沢山のことを教わり、沢山のご迷惑をおかけしました。五十嵐先生は9月から新連載『真夜中ハートチューン』を開始されていますので、ぜひご覧くださいね!

炎炎ノ消防隊 (1)

炎炎ノ消防隊 (1)

全人類は怯えていた──。何の変哲もない人が突如燃え出し、炎の怪物’焔ビト’となって、破壊の限りを尽くす’人体発火現象’。炎の恐怖に立ち向かう特殊消防隊は、現象の謎を解明し、人類を救うことが使命! とある理由から’悪魔’と呼ばれる、新入隊員の少年・シンラは、’ヒーロー’を目指し、仲間たちと共に、’焔ビト’との戦いの日々に身を投じる!! 燃え上がるバトル・ファンタジー、始動!!

リアルアカウント (1)

リアルアカウント (1)

国民的SNS『リアルアカウント』を舞台に、新世紀型デスゲーム開幕!! 『リアルアカウント』の世界にネット依存の柏木アタルほか1万人が、突如吸い込まれた! 「フォロワー0で即死亡」「中の人が死ぬとフォロワーも即死亡」という条件のもと、彼らは人とのツナガリを問う過酷な「ゲーム」に挑む!! 最初のゲームは「リアルフォロワー診断」!!

川柳少女 (1)

川柳少女 (1)

言いたいことは五七五の川柳で伝える女の子・雪白七々子と、見た目は怖いけど心優しい文芸部の毒島エイジ。五七五のたった17音で紡がれる二人の日常は、いつだって幸せいっぱい!

彼女、お借りします (1)

彼女、お借りします (1)

都内在住のダメダメ大学生、木ノ下和也(20)。ある日、’ワケアリ’の超絶美少女、水原千鶴との出会いをキッカケに、彼の人生は大きく変わり始めて──!? ’リアル’輝く’レンタル’ラブライフ、開幕!

生え抜きの天才と出会えた幸運――『イジらないで、長瀞さん』立ち上げ秘話

イジらないで、長瀞さん (1)

イジらないで、長瀞さん (1)

「後輩の女子に泣かされた……!!」ある日の放課後、たまに立ち寄る図書室で、スーパー’ドS’な後輩に目をつけられた! 先輩を、イジって、ナジって、、はしゃぐ彼女の名前は──『長瀞さん』! 憎たらしいけど愛おしい。苦しいのに傍にいたい。あなたの中の何かが目覚める、’Sデレ少女’の物語。丸ごと2話の描き下ろしを加えて、待望の単行本化!!

――『イジらないで、長瀞さん』のヒロイン・長瀞さんは、元々pixivで掲載されていたキャラクターですよね。

平塚:はい。長瀞さんは作者のナナシ先生が、pixivで趣味の一環として描かれていたキャラクターです。僕は大学生の時に初めて知ったのですが、一目見た瞬間から強烈な衝撃を受けました。あまりに衝撃的すぎて、講談社の採用選考でも「入社したらナナシ先生に漫画を描いてもらいたい」と話していたくらいです。
実際、ナナシ先生には配属されて間もない時期にお声がけさせていただき、すぐに連載が実現する運びとなりました。

長瀞さんが先輩を泣かせているシーン(1巻1話より)

長瀞さんが先輩を泣かせているシーン(1巻1話より)

――元々「長瀞さん」というキャラクターで連載の立ち上げを目指していたのでしょうか?

平塚:いえ。当時ナナシ先生が描かれていたイラストの中には、長瀞さんの他にも魅力的なオリジナルキャラクターが沢山いましたので……。あまりこちらでは決め込んではいなかった記憶があります。ただ、ナナシ先生の希望もあり、打ち合わせ一回目で初連載のヒロインは長瀞さんに決まりました。すごいスピード感です。
ナナシ先生は最初から、その作品における「面白い」のあり方や個々のキャラクターの魅力の見せ方など、作品の大事なところを全部自分で決めて積み上げていける作家さんでした。ですので、僕は『イジらないで、長瀞さん』に関して、ほぼ何もしていないに等しいです。やったことと言えば、ナナシ先生に「少年コミックで漫画を描いてほしい」と依頼したことだけでしょうか。早い時期に『イジらないで、長瀞さん』がヒットし、ナナシ先生という天才とご一緒できたことは、僕の編集人生で一番の幸運だったと思います。

『世が夜なら!』を敢えて終わらせた――「生穴る」前夜

――「次にくるマンガ大賞2023」コミックス部門で1位を獲得した『生徒会にも穴はある!』の作者・むちまろ先生も平塚さんがご担当ですね。むちまろ先生とはどういうご縁があるのでしょうか?

平塚:むちまろ先生とのご縁は、編集4年目の頃に僕からSNSでお声掛けさせていただいたのが始まりです。むちまろ先生の絵には初めて見たときから惚れっぱなしで……。デフォルメが巧みな上、写実的な肉感がとても強い、個人的には理想の絵の一つでした。「絶対に商業で通用する!! 賭けてもいい!!」と、勢いのままにお誘いしてしまったのですが、当時むちまろ先生が大学生だったこともあり、漫画家を目指すことに不安を抱えてらっしゃいました。だったら、まずは連載できるという実感を持っていただかねば……と、急ぎ二人で作った企画が『世が夜なら!』です。

世が夜なら! (1)

世が夜なら! (1)

マーナミア=ブルーガラルは伝説の吸血鬼。魔族の世界を征服目前にして、なぜか人間界に堕ちてしまった!! そこは’夜も明るい街’トーキョー。地位に、お金に、そして服……全てを失い全裸の彼女は、裸一貫で深夜のコンビニバイトに勤しむも、絶体絶命の窮地に立たされる!? ──だけど余は絶対負けない! なぜなら’夜の王’だから……! ! 残念カワイイ吸血王の逆境コメディ、ここに開幕! !マーナミア=ブルーガラルは伝説の吸血鬼。魔族の世界を征服目前にして、なぜか人間界に堕ちてしまった!! そこは’夜も明るい街’トーキョー。地位に、お金に、そして服……全てを失い全裸の彼女は、裸一貫で深夜のコンビニバイトに勤しむも、絶体絶命の窮地に立たされる!? ──だけど余は絶対負けない! なぜなら’夜の王’だから……! ! 残念カワイイ吸血王の逆境コメディ、ここに開幕! !

平塚:『世が夜なら!』は、むちまろ先生が趣味としてSNS等で公開していたイラストの容赦ない下ネタやギャグ感を、そのまま漫画の形式に落とし込んだような作品でした。過激な内容でしたが、当時の編集長も太鼓判を押してくれて、他の編集者や作家さんからも高い評価を受けた期待作となったのですが……。
残念ながら、売上はなかなか伸びず。むちまろ先生とも相談して「この売れ行きだったら新しい連載をはじめた方がむちまろ先生のためになる」という結論に至り、一旦、本作は終わらせることにしました。

平塚さんがむちまろ先生に連載終了を告げる様子(『世が夜なら!』2巻あとがきより)

平塚さんがむちまろ先生に連載終了を告げる様子(『世が夜なら!』2巻あとがきより)

――連載を敢えて打ち切るのは大きな決断のように思います。打ち切りを決意した理由をもう少し詳しくお聞かせください。

平塚:まずは連載を通して、純粋なギャグ漫画というジャンルがいかに難しいか実感したのが大きかったです。ギャグ漫画は基本的には無軌道で無秩序なものだと思うのですが、それ故にどういった読者の方々にどうやって作品を知ってもらえばいいのか、売り手としては非常に掴みづらい印象で……。むちまろ先生の魅力的な絵を、読者の方々に正攻法で伝えられるシーンがなかなか作れず、このまま続けても跳ねる状況が想像できなくなってしまったというのが一番の理由になります。

――たしかに 『世が夜なら!』の過激なシーンの数々は、「天才的な発想だ!」と「そこまでやるか!?」の二つの気持ちが同時に襲ってきます。ある意味でレベルが高い作品のように感じました。

平塚:そうなんです。素晴らしい作品だったと今でも思っているのですが、少しぶっとんでいる部分が多すぎて、敷居がだいぶ上がってしまった気がします。読者の方々からすると、笑えるけれど、せっかくの絵やキャラクターを楽しむことが難しく感じられた部分もあったのではないかと……。
そこで、ぶっとんだギャグもやりつつ、もっと普通に絵やキャラクターを楽しめるような漫画を作れたらと、新たに挑戦した作品が『生徒会にも穴はある!』でした。

「生穴る」は、むちまろ先生の自画像から生まれた!?

生徒会にも穴はある!(1)

生徒会にも穴はある!(1)

この生徒会の面子ときたら、あほの子だったり、恐ろしかったり、むっつりだったり、ちょっと変! でも、それがなんだか、妙に可愛く思える今日この頃……。ちょっぴり天才なむちまろが描く、世界一キュートでえっちな日常4コマ!

――『生徒会にも穴はある!』を始める際に、編集者として意識したことはありますか?

平塚:より読者の方々と繋がれる作品にするために、今回は「むちまろ先生が一番大事だと思うもの」からスタートした漫画にしようと話し合いました。
『世が夜なら!』の連載当時、むちまろ先生は「僕が描いているキャラクターはギャグを想像して生まれたものなので、『好き』とか『可愛い』といった感覚は薄く、『笑える』という感覚がほぼ全てな気がします」と、話していました。じゃあ、単純に「笑える」ことが一番大事なのかと問うと、それもおそらく違うと……。では何が一番大事なのかを二人で話し合ったところ、「愛らしい存在が笑えるくらい酷い目に遭っているけど、それに絶望せずになんだか楽しそうに生きているのが愛おしい」という要素が見えてきました。
『世が夜なら!』では、その中の「笑える」という部分を伝えようとして、ギャグ漫画が出来上がったのだと思います。だったら、新作では「愛おしい」という部分に注目して、日常コメディをやろうという話になりました。キャラクターに起きた出来事をギャグとして笑い飛ばすだけでなく、そんな笑える出来事を経ても頑張って生きてる様の愛おしさまで伝えたい。そうすれば、もっと多くの人にむちまろ先生の絵とキャラクターの良さを受け止めてもらえるのでは……という考えですね。
では、それを漫画やキャラクターとしてアウトプットしてもらうにはどうしたらいいんだろうか……。そんな悩みの突破口になったのが、むちまろ先生がSNSで描いていた「とあるキャラクター」でした。

むちまろ先生がX(旧Twitter)に投稿した自画像キャラクター。

平塚:このキャラクターは、むちまろさんが自分の自画像として描いていた子です。小さくて、可愛くて、不憫で、でも幸せに生きていて……この子がまさに、達成しようとしている目標そのもののように思えました。そこからいろいろ膨らませてなんやかんやあって生まれたのが、『生徒会にも穴はある!』の「こまろちゃん」という新しいキャラクターです。

――こまろちゃんが一番最初に生まれたのは納得感があります。こまろちゃんの存在感はかなり鮮烈ですよね。

平塚:本当、むちまろ先生にしか描けない要素をドンピシャで備えた子だと思います。だから、まずはこまろちゃんを中心に置いた漫画をイメージしてみようと提案しました。そんな順に考えて生まれたキャラクターが、梅くんです。彼は「こまろちゃんの隣にいるなら、こんな人であってほしい」というむちまろ先生の願いの固まりのような子です。

主人公・水之江梅の膝に陸奥こまろが座るシーン(1巻8話より)

主人公・水之江梅の膝に陸奥こまろが座るシーン(1巻8話より)

平塚:更に、そこから「この二人を愛してくれる人が居てくれたら」「この二人とはまた違った何か抱える愛おしい人が居てくれたら」と思って生まれたのが、たんちゃんや有栖や会長、そして平塚先生なのだと思います。

左から、照井有栖・小鳥たん・古都吹寿子[会長](1巻1話より)

左から、照井有栖・小鳥たん・古都吹寿子[会長](1巻1話より)

平塚:そんな紆余曲折を経て、最終的には今ある作品の全体像が出来上がりました。……とはいえ、今はもうそれぞれがそれぞれのキャラクターとして息づいていますので、これはもうただの昔話に過ぎないと思いますが。

なろう系作品には、少年漫画の根源的な願いが息づいている

――現在平塚さんがご担当されている作品には、『劣等人の魔剣使い スキルボードを駆使して最強に至る』『Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。』など、「小説家になろう」発の異世界系作品もあります。

劣等人の魔剣使い スキルボードを駆使して最強に至る (1)

劣等人の魔剣使い スキルボードを駆使して最強に至る (1)

「小説家になろう」で約700万PV獲得の話題作がコミカライズ!!最弱から最強へ! チートスキルで異世界無双!!うだつの上がらない会社員「水梳透」は、突如として次元の裂け目へと飲み込まれ、異世界『エアルガルド』に転生する。その世界では、転生してきた人々は極端に弱いため、「劣等人」と蔑まれていた。しかし、神様から「スキルボード」という能力を授かった透は「魔剣」や「限界突破」をはじめとした数々のチートスキルを手に入れたことで、最強への道を駆け上がっていく!書き下ろし小説8ページ分も豪華収録!

Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。 (1)

Aランクパーティを離脱した俺は、元教え子たちと迷宮深部を目指す。 (1)

5年間在籍したAランクパーティを離脱した赤魔道士のユークは、女の子ばかりの元教え子パーティに迎え入れられることに! ダンジョンを攻略するうちに次々と判明していくユークの真の実力。熟練サポート系主人公と、初心者女の子パーティの逆転無双冒険譚、開幕!!「やってられるか!」 。5年間在籍したAランクパーティを離脱した赤魔道士のユーク。『雑用係』『器用貧乏』とバカにされる冒険者生活に、ついに堪忍袋の緒が切れたのだ!そして始まる、絶望の無職生活――…かと思いきや! ユークは女の子ばかりの元教え子パーティに迎え入れられることに! そしてダンジョンを攻略するうちに次々と判明していくユークの実力。実は、彼の振るう魔法とスキルは規格外の力を持っていて――!? 熟練サポート系主人公と、初心者女の子パーティの逆転無双冒険譚、ここに開幕!!

平塚:両作品とも売れ行き好調でありがたいことです……!!
コミカライズを担当しているかのう寛人先生、ユーリ先生は連載開始当時から期待の新人作家さんで、素晴らしい原作を素晴らしい形でコミカライズできた作品になったと思います。

――編集に携わる上で印象に残ったことはありますか?

平塚:なろう系作品の熱さを実感しました。
まず、週刊少年マガジン編集部では4年ほど前に「小説家になろう」発の作品のコミカライズを10作品ほど同時にスタートしています。アニメ化などで大きな話題となっている『シャングリラ・フロンティア』や『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』といった有名作も、このタイミングで始まった作品です。

シャングリラ・フロンティア 〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 (1)

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累計PV2億2千万超え!「小説家になろう」の超人気作が待望のコミカライズ!’クソゲー’をこよなく愛する男・陽務楽郎。彼が次に挑んだのは、総プレイヤー数3000万人の’神ゲー’『シャングリラ・フロンティア』だった! 集う仲間(外道)、広がる世界。そして’宿敵’との出会いが、彼の、全てのプレイヤーの運命を変えていく!!最強クソゲーマーによる最高のゲーム冒険譚、ここに開幕!!

転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます (1)

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マガポケセールスランキング1位の超話題作!小説家になろう発! 累計1800万PVの超人気作がコミカライズ!!俺が興味あるのは魔術だけだ──庶民の転生先は王子!? 桁外れの魔力と家柄でお気楽無双ライフ!!「魔術を極めたい!」たった一つの想いを残し死んだ男は、生前の記憶を残したままサルーム国の第七王子として転生を果たした! 前世とは異なる桁違いの魔力量。第七王子という自由な身分。最高の環境で少年ロイドは魔術浸りの生活を望むが…。

『劣等人~』『Aランク~』もその中の一作としてスタートしたのですが、そこで始まった作品の大半が累計50万部を超えるヒット作となりました。凄まじいです。

――なろう系作品はなぜそこまでの人気を博していると思われますか?

平塚:「小説家になろう」発の作品の多くが、「原初の少年漫画」に近いコンセプトを保っていることが大きいのだと思います。具体的には、少年漫画がいつからかあまり描かなくなった「悪い奴をぶっ飛ばすのは嬉しい」「誰かに認めてもらえるのは嬉しい」という当たり前の気持ちをしっかり的確に提供し続けているということなのではないかと。いざ連載に携わらせてもらって、そういう印象を強く感じました。
昨今の少年誌のバトル漫画は、敵味方の複雑なドラマや、主人公の重い悩み・状況を作り込んだ作品が多くなっている気がします。 もちろん、それも素晴らしいことですし、そういった重く複雑な背景から描ける名シーンも沢山あることは間違いありません。しかし、代わりに純粋な「勝利の気持ちよさ」が描かれた瞬間は大きく減っているんじゃないかと……。
たとえば、『DRAGON BALL』や『北斗の拳』は基本的に「悪いやつが出てきて、それをかっこいいやつが倒す」話だと思います。「どう倒したらかっこいいか」、「どういうやつを倒したら気持ちが良いか」といった部分に工夫が凝らされていて、それこそが面白さだという気持ちで作られている印象です。そんな、現代の少年漫画からなくなりつつあった姿勢が、異世界漫画やなろう系作品には未だに息づいている。携わっている作家さん方は、すごい価値のあることをやられていると思います!!

キャラクター描写を突き詰めて生まれる「生穴る」のリアル

――『生徒会にも穴はある! 』は、けっこうハードな下ネタが多い作品かと思います。連載を開始することに懸念などはありましたか?

平塚:いえ、確かに描写としての限界など個々のシーンには気を遣っていましたが、連載自体への懸念はそんなになかったように思います。そもそも、ハードな内容の作品で問題となるのは、そこに潜んでいる「悪意」なんじゃないかと思いますので。これは上司の受け売りですが、根本に「だれかが不幸せになることを笑いものにしよう」といった悪意さえなければ、それ以外のことに対して息苦しくなる必要はないと考えています。人間なら悪いことを考えるし、エッチだし、しょうもないはずですから。そういったことを含めて愛せるキャラクター達を送り出そうと思っているのであれば、悪いこともエッチなことも思い切り描いて大丈夫だという判断でした。

古都吹会長が布団の中にあるスマートフォンを探す様子(3巻28話より)/『生徒会にも穴はある!』にはしょうもない下ネタが多い

古都吹会長が布団の中にあるスマートフォンを探す様子(3巻28話より)/『生徒会にも穴はある!』にはしょうもない下ネタが多い

平塚:ただ、もちろん少年誌として超えるべきでないラインなど、一定のルールは存在します。たとえば、「直接的なエロをメインの商品にしてはいけない」ということは一つの基準かもしれません。具体的には、「セックスを描けばエッチだからみんな買ってくれるのでは?」という姿勢で、話や作品を作ってはいけない……という感覚です。それは少年誌以外でやるべきことだと思いますので。一方で「このキャラってこんな行動をとっちゃう人なんだ!!」と、キャラクター描写を突き詰めた結果として生まれるエロ描写は、少年誌に掲載されていても問題ないと思います。

――その辺りは、1巻巻末のおまけ漫画に描かれていた話と近いのかなと感じました。

『生徒会にも穴はある!』1巻あとがき漫画より

『生徒会にも穴はある!』1巻あとがき漫画より

平塚:そうですね! 『生徒会にも穴はある!』の作中ではめちゃくちゃなことがひっきりなしに起きています。けれど、キャラがやらなさそうなことだけは絶対にやらせないよう心がけています。裏を返せば、そのキャラがやりそうなことはどんなことでもしっかり描く!!!  むちまろ先生とそんな覚悟で臨んでおります。

古都吹会長が何かをやってしまったシーン(4巻42話より)/何をしたかは明言されていない。

古都吹会長が何かをやってしまったシーン(4巻42話より)/何をしたかは明言されていない。

――お話を伺っていると、正々堂々と『生徒会にも穴はある!』の良さを人に言いたくなってきました。

平塚:ありがとうございます!!  とはいえ、その言いづらい・手に取りづらいのは現状のブランディングに課題があるということですので……。今後そのイメージを覆し「下ネタ要素はあるけど、誰が読んでも面白い漫画」として受けとめてもらえるよう頑張りたいです。

――その点、「次にくるマンガ大賞2023」でコミック部門1位を取ったのは、読者をしっかり獲得しているだけでなく、作品が広く受け入れられる余地があることを示した出来事だと思います。

平塚:そうですね……!  実は、「次にくるマンガ大賞2023」で本作に投票してくださった方々の感想の中に、「この漫画があるからこそ生きていられると言って過言ではない作品です。 ギャグの部分だけ注目されがちですが、人が人を想うとはどういうことか、 ほんとに自分の事を想ってくれたんだとわかった時、涙がこぼれることをこの作品はいつも教えてくれます。 大好き!!」というコメントがありました。
この感想は、まさに願っていたものでした。むちまろ先生も僕も、笑えるシーンの裏にある「この子たちの関係性の、暖かさと愛しさ」が伝わってほしいと思っていましたので……。そういった気持ちが多くの読者の方々に受け止めていただけて、応援してもらえた結果が1位という数字に表れたのかもしれませんね。

自分の本音をまっすぐ伝えられるのはそれだけで才能

――ナナシ先生やむちまろ先生は、エッジの効いた作風が印象深い作家さんです。そういった才能を世の中から探り当てる際に着目しているポイントはありますか?

平塚:作家さんにとって一番大変なことは「自分が抱えている本当の気持ちを、素直に世界にさらけ出す」という作業だと思います。僕も今の仕事と向き合ううちに、ようやっと大分明け透けに気持ちを喋れるようになりましたが、中高生くらいの自分を思うと信じられないです。当時の僕は、大好きだった『魔法先生ネギま!』や『To LOVEる』をレジに持っていくだけでもう心臓がドキドキでしたから。

生死に関わることや、好きなこと、性に関わることなど、価値観について喋るのは怖いことだし、それを前向きに語るのはもっと難しいことだと思います。それをネガティブな形ではなく「好き!」や「おもしろい!!」という積極的なニュアンスで形にできるのは、それだけでもう輝かしい才能です。それが仮に周りの人から見たら引かれるようなラインのものであっても、です。そういったことをやられている方、あるいはやろうとされている方に、積極的にお声掛けさせていただいているかもしれません。

――作家さんと出会うために、具体的に心がけていることはありますか?

平塚: 敢えて挙げるには普通過ぎるかもしれませんが、X(旧Twitter)やpixivなど、SNSの投稿作品を毎日楽しくチェックしています。この習慣は、まだデビューされていない新人作家さんと出会うためにも非常に意義のあることでした。
一昔前、漫画を世の中に発表するためには、商業出版社への持ち込みがほぼ必須となる世界観でした。ですが、今は作品発表の場なんてネット上にいくらでもあります。持ち込みの量は減り、その分、才能ある作家さんはSNSや支援サイトに作品発表の場を移しているのが現状です。僕の経験だけでも、SNSで出会った才能ある作家さんは、ナナシ先生やむちまろ先生、『えるのわ!~恋愛弱者とペケ天使~』のスズモトコウ先生や、『姫騎士は蛮族の嫁』のコトバノリアキ先生など、数多くいらっしゃいます。

えるのわ!〜恋愛弱者とペケ天使〜 (1)

えるのわ!〜恋愛弱者とペケ天使〜 (1)

「恋のキューピッド、エルがあなたの恋の手助けに参りました!」馬鹿正直で素直すぎ、だから彼女ができない高校生・虎賀良喜の前に、天界から可愛い救世主がやってきた! しかしその正体は、なんと恋愛よわよわポンコツお姉さん――!? 恋もお仕事もぶきっちょなエルさんは、真っ直ぐな良喜くんにぺースを乱されまくり! 周りの個性豊かな女の子達を巻き込んで、ふたりの「運命の人探し」がドタバタ開幕ですっ!!たわわで照れ屋なポンコツ天使、あなたのためにいざ見参! 非モテ高校生・良喜の前に現れた、色っぽくて可愛い恋の救世主・エル。良喜の部屋に居候して「運命の人」を探すというけれど、恋も仕事もぶきっちょなポンコツお姉さんだった!? 恋愛よわよわガール達を巻き込んだ賑やか幸せラブコメディ、ドキドキの開幕♪

姫騎士は蛮族の嫁 (1)

姫騎士は蛮族の嫁 (1)

「くっ、殺せ!」西方最強の女騎士こと、セラフィーナ・ド・ラヴィラント。彼女は東方での戦争に敗れ、蛮族の捕虜となってしまった! 敗北者であるセラフィーナに待ち受けるのは、復讐、拷問、そして陵辱の日々――…、かと思いきや! 申し出られたのは「蛮族王との結婚」で――!? 元敵同士の二人が紡ぐ本格異世界婚姻譚、開幕!!

僕が入社したタイミングでは、SNS出身の作家さんに対して懐疑的な目を向ける先輩や上司が結構いました。ですが、今はもう明らかにそんな時代じゃなく、いろんな才能を持った人がいろんな場所で活躍されている時代です。出会う努力は、編集者の方からもしっかりやっていかねばならないと思っています。

結果が出ないと誰にも信用してもらえない、編集者という仕事

――編集者という仕事の大変さ、そしてやりがいを改めて教えてください。

平塚:まずは「作家さんに信頼してもらう」ということが一番大変だと思います。編集者は、自分で絵を描くわけでもなく、一から十まで話を作ることも基本的にはない。でも作品には口を出す、普通に考えたら謎の存在です。編集者は、自分が口だけじゃないことを口だけで証明する必要があります。
編集者が良く言うのは、「こうしたら売れる」とか「こういうポイントを押さえないと読者に伝わらない」とかそういった客観的っぽい意見だと思います。でも、それも下手をすれば感覚的なものでしかないかもしれません。作家さんに意見を言う際には「なぜその感覚が正しいのか」という意見も伝える必要があります。もちろん実績も大切で、結果が出ないと誰にも信頼してもらえない。でも、結果を出すには信頼してもらう必要がある……。それが新人の頃、本当に大変でした。

編集者の理想的な在り様は、航海で例えると「戦闘力と志のある冒険者(作家さん)を船に乗せて、その旅程や行き先を考える航海士」のような感じな気がしています。 実際にネームや原稿を描く「戦闘」には大して役に立てないけれど、作品自体の大きな指針をデザインする「舵取り」では経験と知識を以って役に立つ人。ですので、作家さんから信頼を勝ち得て「舵取り」を任せてもらえない限りは、ただの闘えもしない口だけ出す人で、なんの存在意義もない立場になってしまいます。
ただ『生徒会にも穴はある!』では、むちまろさんがその「舵取り」のかなりの部分を僕に任せてくれました。そのため、プレッシャーも大きいですが、役に立てている実感も大きくて楽しいです。

生徒会顧問・平塚敏深(ひらつか・さとみ)が梅に頼る様子(4巻46話より)

生徒会顧問・平塚敏深(ひらつか・さとみ)が梅に頼る様子(4巻46話より)

――まさに今やりがいを感じている真っ最中になるわけですね。

平塚:むちまろ先生のお陰ですね(笑)ちなみに、やりがいという意味では、当然作品が売れてくれることも大事です。個人的には、最終的に200万部くらい売れそうだというビジョンが見えたとき、すごく安心します。作家さんに一生分稼いでもらえるラインが大体そのくらいだと思いますので。

――今後、編集者としてやってみたいと思っていることはありますか?

平塚:僕が若手の頃、当時の編集長に言われて印象的だった言葉があります。曰く「はるか昔から、人間の二大要素はエロスとタナトスだと言われているのだから、漫画には極論『裸』と『死』、つまり「色恋」と「生き死に」さえあればいい」 。これまでの編集人生で、前者の要素を持った素晴らしい作品に携わることができました。ですので、今後は後者「生と死」を扱った作品にも深く携わることができたらなと思っています。

――最後に、読者やDMMブックスユーザーさんにひと言お願いします。

平塚:これからきっと、世の中は更に大きく変化し、価値観もどんどん多様化していきます。その中で、人の生き方や、軋轢、困難、幸せのあり方もまた、新しく多様なものが生まれていくと思います。そして、それに合わせて、漫画もより個人的でより深くより尖ったものが増えていき、新たな金字塔が沢山生まれてくるはずです。
世の中が変化すると、その分新しいものが世の中に生まれてきます。だから、まだ見たことないおもしろい漫画は世の中にたくさん出てくると信じています。今後も世に出てくる新しい漫画を、皆さんも楽しく読み続けていただけたらうれしいです。

笑顔の平塚さん(『生徒会にも穴はある!』4巻カバー表3より)

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