不思議で不確かな、「言葉」にまつわる奇想漫画たち(どくしょ部おすすめ特集12)

 年間1,000作品近く漫画を読んでいるDMMブックスの書店員が、独断と偏見に基づいて作品をレコメンドする「DMMブックスどくしょ部おすすめ特集」シリーズ第12弾。今回は「言葉」を巡る不思議な漫画や、現実と空想が交わり合う奇想漫画を3作品ご紹介します。普段私たちが何気なく使う「言葉」を駆使して綴られる奇妙な世界に、あなたも迷いこんでみませんか?(文責:書店員M)

「言葉」にまつわる奇想漫画

言葉の獣

言葉の獣 (1)

言葉の獣 (1)

言葉を<獣>の姿で見ることができる共感覚の持ち主・東雲と、詩に強い関心を持つクラスメイト・やっけん。二人はふとしたきっかけから、東雲の持つ’ある目的’の為に協力し合うことに。東雲が<生息地>と呼ぶ場所に獣たちは棲んでいるらしい。言葉の扱われ方によって変化するその場所で、二人は様々な<獣>に出会っていく…。言葉とは何か、詩とは何か。連載開始時から大反響の話題作、待望の第1巻。

 詩に強い関心を持つ少女・やっけんと、言葉を「獣」のかたちで見ることができる同級生・東雲(しののめ)。彼女たちは、東雲が見る「言葉の生息地」の世界を二人で探検し、言葉が持つ本当の意味や奥深さを探っていきます。
 「言葉」はとても不確かで、本当に伝えたい気持ちを表現できないことすらあります。「頑張れ」にいら立ちを感じるのは、そこに「助けられない」という含意を読み取ってしまうから……「ずるい」という拙い表現で言いたかった本当の気持ちは「羨ましい」……。
 言葉一つひとつに感じることや、言葉で表現したいことを丁寧に紐解いていく過程を、「言葉の名前がついた空想上の獣」として表現しているのが斬新。彼女たちが抱える気持ちや思いを会話を通して深掘りする中で「獣」は新しく発見され、二人や周囲の人々は互いに理解を深めあいます。
 言葉を通した、人同士の相互理解をファンタジックに描くオンリーワンな一冊です。

児玉まりあ文学集成

児玉まりあ文学集成 (1)

児玉まりあ文学集成 (1)

比喩・記号・語彙――文学の構成要素をテーマに孤高の才能が描く、静寂と浮遊感、とびきりのポップ。詩情あふれる台詞と画面、ミステリのような叙述トリック、近いようで遠い存在である文学と漫画が、かつてないほど接近した注目作!

 高校の部活「文学部」の部長・児玉まりあと、文学部への入部を志望する笛田君。二人が「文学」を巡って繰り広げる、ポップでキュートな文学ラブコメです。
 児玉さんが語る「文学」は、ときには世界のかたちすら変えてしまいます。児玉さんによって「笛田君」という言葉は100の記号で言いかえられて、二人のしりとりから出てきた新しい言葉はいつの間にか現実に存在する言葉になり、彼女が新しい本の読み方を提示することで笛田君には妹がいることになってしまい……。
 児玉さんの繰り出す文学的な会話に、笛田君は毎日驚かされるばかり。「言葉」の不思議さ、不確かさを軸に、物語はとんでもない展開を見せていきます。そんな中でも一貫して描かれるのは、二人のもどかしい恋模様。ファンタジックな展開の中で素朴に語られる二人の気持ちに読めば悶絶間違いなし? 
 書店員のおすすめポイントは、ぼんやりしていてちょっと(かなり?)変わった笛田君の言動。なんとも言えない味わい深さが魅力です。

現実と空想が交わり合う奇想漫画

おむすびの転がる町(全1巻完結)

おむすびの転がる町

おむすびの転がる町

「楽園」からの6冊目のpanpanya作品集。表題シリーズはじめ「筑波山観光不案内」全5本計55p、「坩堝」「ツチノコ発見せり」「新しい土地」等、著者ならではの描写が輝く16篇。日記も併収。

 漫画家・panpanya(パンパンヤ)の作品は、日常的な題材がとんでもないところに着地する奇想力が大きな特徴。第6短編集『おむすびの転がる町』にも、それぞれ独立した不思議な短編が16作収録されています。
 「筑波山」「手紙の再配達」「リサイクルショップ」「学会への研究発表」といった一見変哲のない題材も、panpanyaの手にかかれば奇想短編に早変わり。語り手の少女は、商店街の福引きで当てた「筑波山」への旅行中にガマガエルの運営するガマ油工場に迷いこみ、宛先不明で戻ってきた「手紙の再配達」の途上で謎の地下街に辿り着きます。街中の「リサイクルショップ」では縄文土器やティラノサウルスの化石が売られています。ツチノコを捕まえた後は1億円の賞金目当てに「学会への研究発表」に邁進!?
 エッセイ漫画のような雰囲気でイマジネーションがほとばしるストーリー展開のpanpanya作品は、読んでいると現実と空想の境目が揺らいでいくような感覚を抱かせます。私たちの生活のそばにも、不思議な世界が広がっているのかもしれませんね。

終わりに

 今回紹介したのは、「言葉」の不思議さ・不確かさを独自のアプローチで描く作品です。
 『言葉の獣』では人同士が交わし合う言葉の含意・真意を探っていく過程を、「不思議なかたちをした獣の探索」という表現方法で描きます。一方、『おむすびの転がる町』では私たちに馴染み深い物事が不思議な物語世界に放り込まれ、言葉のイメージが揺るがされるところが特徴。『児玉まりあ文学集成』は男女のポップな言葉遊びを軸に「文学」の不思議さ・奥深さを提示しました。
 言葉をテーマにした奇想あふれる物語に触れながら、自分が普段何気なく使っている「言葉」の不思議さ・奥深さに思いを巡らせてみてください。
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