ぼんやりと苦しいあなたのための漫画3選(どくしょ部おすすめ特集13)

 年間1,000作品近く漫画を読んでいるDMMブックスの書店員が、独断と偏見に基づいて作品をレコメンドする「DMMブックスどくしょ部おすすめ特集」シリーズ第13弾。今回は書店員の超個人的セレクションから、ぼんやりした苦しみにぼんやりしたまま付き合ってくれる漫画をご紹介します。
 最近はいろいろな悩みに寄り添ってくれる漫画が増えました。しかし、ときには自分が何に悩んでいるのかも分からなくなりませんか? 特定のジャンルやテーマでは扱うことができないような、ぼんやりとした不安や苦しみには、おとぎ話やたとえ話の方が自分に寄り添ってくれることもあります。今、どうしても眠れない夜を送っている方は、この3作を読んでみませんか?(文責:書店員T)

深く考えてしまう時のための漫画3選

チキタ★GUGU(全8巻完結)

チキタ★GUGU 1巻

チキタ★GUGU 1巻

‘不味い人間は百年大切に飼育するとたいそう美味になる’という噂を信じる七変化の人喰い妖怪ラー・ラム・デラル。飼育される人間チキタ・グーグーの運命は!? TONOちゃんのシニカル・ファンタジー。

 「あやしい屋」のチキタ・グーグーは、家族全員を惨殺した人喰い妖怪ラー・ラム・デラルに飼われることに。しかし、チキタはその状況をどこか他人事のように受け止めています。一方、ラーはチキタの存在がだんだんと大事に感じられるようになってきて……。
 平気で相手を傷つける人と、相手を慈しむ人との違いはどこにあるのか。この作品では、その2つに根本的な違いはありません。たとえば、果物を食べるとき、人間には果物の「絶叫」は聞こえません。同じように、人喰い妖怪には人間の「絶叫」は聞こえない。しかし、いつだって私たちは相手の声を聞くチャンスに開かれているのです。では、聞くチャンスに恵まれたか否かの違いしかないとすれば、私たちはどのように人喰いを否定すればよいのでしょうか。
 とんでもない悪人たちが次々と登場するにもかかわらず、善と悪とが決してはっきりと区別されない……人が他の人を大切にするとはどういうことなのか、深く考え抜かれた作品です。徹底的にシニカルな世界観の中で、最後にたどり着く場所を、ぜひあなたにも目撃して欲しいです。2007年センス・オブ・ジェンダー賞、特別賞受賞作。

偽物協会(全3巻完結)

偽物協会 (1)

偽物協会 (1)

あなたは なんの 偽物 ですか?「ようこそ偽物協会へ!」そこは、「本物(ふつう)」の枠からはみ出てしまった「偽物」たちの集う場所。脱毛したいサボテン、鳥になりたい石ころ、人の耳を嫌うイヤフォン…そして、不安になると体が毛布になる女の子。「偽物」たちの ふんにゃり 不思議でドタバタな日々が始まります。誰も本物になれない、今を生きるすべての「偽物」たちに捧ぐ__読むと心がふんにゃりする、笑えて泣けるメルヘンチック偽物コメディー、待望の第1巻!

 不安でいっぱいになると体が毛布になってしまう綿子。風に乗って流されていくうちに、「偽物」が集まる偽物協会にたどり着きます。脱毛したいサボテン・耳が嫌いなイヤホン・そして偽物たちを愛してやまない会長など個性豊かな面々と日々を過ごす中で、彼女は毛布にならない「本物」の人間になろうしますが……。
 社会の中で「普通」に振る舞えないキャラクターたちの物語です。それぞれに個性的な「偽物」たちの抱える悩みは、抽象的なのにどこか心当たりがあって、古いおとぎ話のような印象を受けます。
 完璧に「普通」で「本物」な人などおらず、私たちは社会の中で大なり小なりの恥ずかしさを抱えざるを得ません。『偽物協会』は、そうした根源的な居心地悪さのようなものに寄り添ってくれます。現実にいない「偽物」のキャラクターだからこそ、そうしたことが可能になるのです。

くりーくん(全2巻完結)

くりーくん (1)

くりーくん (1)

白ネズミのくりーくん。彼はリストラされて、妻に離縁されて、愛娘との生活を失いました。大切なすべてを失ったように見えますが、くりーくんはまだあきらめていません。なぜなら、森の仲間達が一緒だから!

 森に住む白ネズミのくりーくんは、離婚した家族への養育費を稼がなければいけないのに無職です。一見、すべてを失ったように思えますが、くりーくんはまだ諦めていません。似たような境遇の仲間たちと一緒に、少しずつ着実に人生を立て直していきます。
 『ハトのおよめさん』で知られるハグキの中編作品で、ジャンルとしてはシュールなギャグ漫画に分類されると思います。しかし、くりーくんの厳しい状況が背景にあるだけに、物語には常にどこか悲壮感が漂います。それでも、その状況がシュールに描かれているため、読者は落ち込むことなく読み進められるわけです。
 物語が進むにつれて、くりーくんの生活は徐々に上向いていきます。しかし完全に安定することは決してありません。不安とユーモアがごちゃまぜになった世界観は、読んでいると曰く言いがたい気持ちになりますが、不思議と元気が出てきます。やけにリアルで具体的なくりーくんの状況とは裏腹に、あらゆる人の心に響く作品です。

終わりに

 季節の変わり目で、気分が優れない方も多いと思います。嫌なことは忘れるのが一番ですが、あえて悩みに向き合う漫画を読んでみるのもひとつの方法です。今回ご紹介した作品はいずれも完結済みで、それぞれの問題について一定の答えが出されています。ぜひじっくり読んでみてください。
 書店員がとくにおすすめしたいのが『チキタ★GUGU』。人間のみならず動物や植物まで包み込むような、軽妙なスタイルで描かれています。忘れられない漫画になること間違いなしです。

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