累計発行部数150万部を突破した大人気漫画『こういうのがいい』の最新7巻が本日2023年11月17日に発売されました。10月29日からは実写ドラマの放送が始まり、ますます注目を集めています(DMM TVでも、同作の独占見放題配信を実施中!)。今回はドラマ化と新刊発売を記念して、原作者の双龍先生にDMMブックスが独自インタビューを行いました。作品の来歴の話から始まり、漫画に対する双龍先生独自の哲学まで充実したインタビュー内容です。担当編集Sさんを交えて深いお話が聞けたので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
Twitterから『となりのヤングジャンプ』掲載へ

――『こういうのがいい』は双龍先生のTwitter(現・X。以下、初掲載の時期を考慮し、Twitterと表記)で発表された作品が元になっていますが、どういった経緯で『となりのヤングジャンプ』で掲載されることになったのでしょうか。
双龍先生(以下、双龍) 『週刊ヤングジャンプ』の40周年記念として、それまで同誌で描いたことのない作家に読み切り漫画を描いてもらう企画があったんです。僕は当時『間違った子を魔法少女にしてしまった』(新潮社)という漫画を描いていて、それをきっかけに声がかかりました。打ち合わせをしているときに、「Twitterで『こういうのがいい』っていう漫画を描いてるんですけど……」と話を振ってみたところ、編集担当のSさんも知ってくれていて、「じゃあこれでいきましょう」と掲載が決まりました。
今ではSNSで漫画を発表するのは当たり前になっていますが、『こういうのがいい』を描いていた当時(2018年)は、そうした発表の仕方がようやく定着しはじめていた時代だったと思います。
最初に描きはじめたときは、本当に単なる願望みたいなものをただ具現化しただけでした。その辺のファミレスや喫茶店に、ざっくばらんに話せるちょっとエロい女友達が働いていたらいいなと思ったんです。だからタイトルもそのまま「こういうのがいい」になったわけです。
描いてみると意外と反応が良くて、その後も思いついたら描くといった感じで続けていたら、週刊ヤングジャンプ40周年記念企画のお声がかかりました。
――ちなみに、Twitterで一番最初に発表されたときのタイトルは「こういうのがいいの」でしたよね。
双龍 正確には、ツイート(現・ポスト)に「こういうのがいい」と書いてあって、画像を開くと「自分にとってこういうのがいいの」と駄目押ししている感じで語尾に「の」が付いていました。でも、最終的に「の」は不要だと思ったのでタイトルからは消しました。
――Twitter版と比べると、友香の性格は変化していますよね。Twitter版の彼女は『となりのヤングジャンプ』連載版とは異なり、オタク口調ではありません。連載版では、友香と村田の出会いはオンラインゲームのオフ会ですが、この出会いは友香のキャラから逆算されたものだったのでしょうか。
双龍 Twitter版でオタク口調ではないのは序盤だけです。最初は本当に手探りで始めていましたが、次第にオタク口調が増えていきました。なぜかは自分でもわかりません。
Twitterで描いていたときは、二人がどこで出会ったかについては考えていませんでした。実際に他人と初めて出会ったとき、その人のバックボーンはわからないじゃないですか。だから、「二人がどこでどう知り合ったのかわからない」という感じを描きたかったんです。いきなり登場して仲がいい二人の様子を見ていくと、どう出会ったのか気になると思いませんか?
――なるほど。後にお話を伺いますが『こういうのがいい』の特徴的な、「のぞき見る」ような画面構成ともマッチしたお話に聞こえます。
双龍 はい。ただ、一般商業誌の連載になるとそうはいかないんです。ただでさえモブっぽい二人なので、説明不足になると思い、仲良くなった経緯を最初の走り出しで描きました。
――友香は連載開始後すぐに髪型を変えて染めていますね。
双龍 友香はもともとピンクのショートボブなので早めにそうしましたが、どのタイミングで、どういう気持ちで髪型を変えるのだろうと考えたとき、長かった髪を切るというのは、結構な吹っ切りが必要だと思いました。友香の場合、元カレのモラハラを少し引きずっていたのかもしれません。村田と出会い、新しい関係が始まったのを機に髪型を変えることで、日常にあるちょっとした気持ちの切り替えを表現しました。

第1巻、96ページ 「こういうのがいい」(C)双龍/集英社
ラブコメを描いてはいない
――『となりのヤングジャンプ』での掲載が始まった時期に、「アンチラブコメディ」という言葉がキャッチコピーとして出されていたと記憶しております。個人的におもしろい言葉だなと思って読んでいたのですが、これは双龍先生が考えられたのでしょうか。
担当者編集者・Sさん(以下、担当編集S) 「アンチラブコメディ」は、第1話の扉ページにキャッチコピーとして入れたものです。もちろん先生とお話しながら、コンセンサスを取った上で決めました。
『こういうのがいい』は、それまでのいわゆるラブコメとは違う作品だと思っていました。だから、最初からラブコメだと思って読まれたくないなと思ったんです。双龍先生が本作でやっていることは、ラブコメっぽいけど全然ラブコメじゃない。まったく新しいことをやっているんです! というのをなるべくわかりやすく、初期は打ち出そうと思っていました。
――『こういうのがいい』が始まった頃、漫画業界は一種のラブコメブームだった印象があります。そうした中で「アンチラブコメディ」と打ち出されたのは、漫画全体の状況に対する何かしらの視点があったのでしょうか。
双龍 元々は「アンチエロ漫画」として描いていたので、成人漫画の描き方に対する視点はありました。ただ、『となりのヤングジャンプ』での連載となるとエロが主軸ではなくなります。
Twitter版の時点で二人の「付き合っていないけど心地いい」という関係性から、成人向けの漫画が好きな男性だけではなく女性も結構読んでくれていました。だから、作品のエロ以外の部分が読者にも伝わっているのではないかと思いました。
ラブコメ漫画は、主役の二人がいずれ付き合う流れになるのが一般的だと思いますが、『こういうのがいい』は、付き合っていない主役の男女が出会ったその日にHするので、「アンチラブコメディ」のキャッチコピーは、まさにその通りだと思いました。
「定点カメラ」的な画面構成
――『こういうのがいい』の特徴として、いわゆる定点カメラ的な、同じ視点のコマを繰り返し描く画面構成が挙げられると思います。こうした手法はTwitter版の時点で用いられていましたが……。

第1巻、81ページ 「こういうのがいい」(C)双龍/集英社
――定点カメラ的な画面構成は、2018年頃には同人やイラスト共有サービスなどの成人向けコンテンツの中で、一種のブームだったように思います。そういった状況への意識もあったのでしょうか。
双龍 そういった意識はありませんでしたが、成人向け漫画は、シーンの押し引きがあって、とくに局部をアップで見せることが多いと思います。その逆を行こうと思い、定点カメラ的な見せ方をしようと思いました。
――いわゆる定点カメラ的な画面は、同じ背景を繰り返しつつおもしろい画面にしなければならず、大変なのではないかと想像します。絵を作る際に意識されていることはありますか。
双龍 同じ背景でも、「視点」が変わるだけでもおもしろいと思っています。たとえばABCの話題を出すとします。ABCを順番に見せるとき、Aのときはあの視点、Bのときはこの視点という風に、カメラアングルを変えていきます。カメラはどこにでも置くことができますが、どこに置くかによって場面の印象は変わります。その上で、遠めの視点にカメラが置いてあった方が、のぞき見っぽいというだけでなく、いろんな情報が入っているので、見ている人がいろんな解釈をしようとすると思います。
実際、人間の目は一定の広さの視野があって、その中で動きがあると、そっちを見るじゃないですか。そういう意識で俯瞰視点を使っています。
その表現が実現しやすくなった理由は、3Dで漫画の背景を作る技術発展があり、ある程度のパソコンのスペックがあればかなり自由にいじれるようになったからです。作画にはCLIP STUDIO PAINTを使っているんですけど、それとは別にTwinmotionという3Dのツールも使っていて、一度3Dで舞台を作ってしまえば、それを動かしてキャプチャーするだけです。それはそれで結構大変な作業なんですけどね。

漫画では、誰が何をしていて、どういう場所にいるとかページの1コマ目で全部描いてあれば、その後のコマの背景が白くても読者の頭の中である程度補完されます。
『こういうのがいい』では、のぞき見というテーマを設定していることもあり、先ほど言ったような意味で俯瞰視点を使いますので、全部のコマに背景を入れます。3Dツールのおかげで実現できることなので、「できちゃうならやっちゃえ」という遊び心もあり、全コマに入れています。
――遊び心といえば、連載第一回目の、ビルの屋上をネガポジ反転した絵のページで終わっていたのが印象的でした。このページの経緯などあれば教えていただけますか。

第1巻、26ページ 「こういうのがいい」(C)双龍/集英社
双龍 この場面は、村田と友香がお互いの恋人とのやり取りでどんどん疲弊しピークに達して「めんどくさい」という二人の意思を一緒に表現したかったんです。
このページにたどり着くまでに村田と友香をたくさん映しているので、最後にまた二人を映すのは何だかくどいと思いました。建物の色を反転させているのも、一線越えた感を出すためです。
――この屋上の絵は、現実の具体的などこかの写真や模写ではなく、3DCGですよね。
双龍 そうです。
性的関係は人それぞれでいい
――『こういうのがいい』はあくまでもフィクションですが、現実における性関係の問題と重ね合わせて読む読者もいるのではないかと思います。先生ご自身は、作品と現実の性関係との関係について、何か思われるところはありますか。
双龍 作品を読んでどうとらえるかは読者次第だと思いますが、ちゃんと配慮があった上で、許し合える関係性で、周りに迷惑かけないようにすればどんな関係でもいいと思います。
『こういうのがいい』を読んで、「こういうの」が良くないという方もいると思いますが、「not for me」でいい。友香が元彼のことを「いやいや、みんな良い男だった。うちと合わんかっただけ」と言っているのも、自分にとってどう思うかが大事だと考えているからです。

第5巻、16-17ページ 「こういうのがいい」(C)双龍/集英社
どのキャラクターもお気に入り
――『こういうのがいい』の中で、先生が気に入っているキャラクターはいますか。
双龍 やっぱりメインの二人が一番描いていて楽しいのは前提として、全員おもしろいやつなんですよね。みんなが主人公を食うぐらいのポテンシャルを持っています。今下を描いているときも、仕事はできるけど恋愛においては不器用っていう感じが楽しい。
拝島は何でも笑って過ごして、笑いの勢いで全部いけちゃうやつなんだろうなとか。僕が会社員をやってた頃は本当にそういう上司がいて、ちょっとピリつくような話をするときでも、この人が居れば大丈夫、みたいな感じの人です。

拝島(3コマ目左)第5巻、22ページ 「こういうのがいい」(C)双龍/集英社
ほかにも伊藤とか……伊藤も本当に楽しいんです。彼は、思春期をまだ引きずってるような、いいやつなんだけど空回ることが多い人物です。

第5巻、84-85ページ 「こういうのがいい」(C)双龍/集英社
担当編集S 双龍先生と打ち合わせをするときの特徴として、キャラクターのことを話すときに、あまり「自分が生み出したキャラクター」というニュアンスで話されません。たとえば、「伊藤くんって今こんな感じですよね」と振ると、「あー伊藤ね、伊藤。なんか、そろそろこういうことしそうですよね」みたいに話されます。ちょっと距離がある言い方をされていて、そういう作家さんは結構めずらしいです。キャラクターを操作するというより、実在の人物のように扱って、「あの人だったらこういうことしそう」という感じです。「社内のあいつ」の噂をしているぐらいの感覚で話すところがありますよね。
双龍 確かにそうですね。多分、僕の漫画の登場人物は、仮に僕の漫画の登場人物であるということを外したとしても、それはそれでどこかの誰かっていう感じで説明できちゃうと思うんですよね。
担当編集S 作為をあまり入れたがらないんですよね。たとえば、こういう展開どうですかって言うと、「いや、それだと作為が出過ぎちゃいます」みたいな感じで返されることがあります。ある程度現実的なものを描くときに、作り手の作為が入りすぎないように、漫画的になりすぎないように、という点を意識されているのだと思います。
双龍 ドラマチックには絶対しないみたいな、いやドラマ化していただきましたけど(笑)。でも、話を考えるときは僕も意図しない展開になります。もちろん話は自分で考えていますが、こんなことが起こってそうだっていう距離感で書くので、思いも寄らなかったところに話が飛ぶ場合もあるんですよ。
最近の展開で言えば、村田と友香の関係は今下にばれたらまずいように見えるかもしれません。でもよく考えると、別に付き合っていないし、ばれたところで別に……って感じもする。だけど、なぜかハラハラしますよね。徳子の場合は、何かを直接聞いたわけではないけど、察しがいいし、家族だから何かわかるわけです。
彼らの多くは、会社の人だったり、友達だったり、序盤に成り行きで登場したキャラクターでした。それがだんだん役割を持ち始めます。だから自分で描いていてもおもしろいんです。自分が生み出したんですが、そこに元々いたかのような人たちというか。
――なるほど……今回のインタビューの最後に、「今後の展開はどうなっていくんでしょうか」ということをお聞きするつもりでした。しかしお話を伺ってる限り、今後どうこうしていこうという風にお話を作っているわけではないんですね。
双龍 そうなんです。「今後の展開はどうなりますか?」と聞かれることがあり、いろいろ答えてはいるんですけど、実際どうなるかはまだわかりません。時が経てば考えも変わると思うので、凝り固まらないように僕自身も意識しています。
読者・視聴者の皆様へのメッセージ
――最後に、原作の読者の皆様や、ドラマの視聴者の皆様にメッセージをいただければと思います。
双龍 いつも応援していただき、ありがとうございます。『こういうのがいい』をこれから読んでくださる方は、ぜひフラットな気持ちで読んでみていただければと思います。誰でも先入観や固定観念はあると思いますが、読んでいくうちにそれがちょっと緩く、柔らかくなってくれたら、すごく嬉しいです。
――画面構成からキャラクターの成り立ちまで、一貫したスタンスをお持ちであることがよくわかりました。大変興味深いお話をありがとうございました!

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