スポーツ漫画の中でも、陸上漫画は知る人ぞ知る奥深いジャンルです。メジャー競技を真正面から描いた名作から、あまり知られていない種目にスポットを当てた意欲作、さらに熱い感動作まで、多彩な作品が揃っています。
そこで今回は、年間1,000冊近く漫画を読んでいるDMMブックスの書店員がおすすめの陸上漫画23作品を徹底ガイド! 短・中距離走、マラソン、駅伝など競技種目別にさまざまな作品を集めました。陸上競技が好きな方も、漫画ファンの方も、ぜひ陸上漫画の層の厚さをご堪能ください!
【陸上漫画おすすめ】短・中距離走編
陸上競技の花形100m走を始めとした短・中距離走から、スプリンターたちを描いた作品をピックアップしてみました。陸上に人生を捧げる真剣なものから、ちょっと笑えるギャグ漫画まで。短・中距離種目には勝ち負けがわかりやすいという特徴がありますが、ここではバリエーション豊かな4作品をご紹介します。
ひゃくえむ。(全5巻完結)
100mだけ誰よりも速ければ、どんな問題も解決する——。『チ。―地球の運動について―』の魚豊、全力疾走の連載デビュー作!! 「100m走」に魅せられた人間たちの、狂気と情熱の青春譚です。
走ることには楽しさだけではなく、敗北や才能の限界に伴う挫折や恐怖などもつきまといます。本作は選手たちの心の闇をこれでもかと見せつけながら、それでも走ることを肯定しようとする作品です。近年の陸上漫画のなかでも話題になった、短距離走漫画の傑作です。2025年には、劇場アニメ化も決定しています。
スプリンター(全14巻完結)
短距離走を題材にした漫画としては古典の域に入る有名作です。1980年代に『週刊少年サンデー』で連載されていました。
主人公はスプリンターであるだけでなく、学生にして財閥のトップに立つなど型破りな男。しかしその地位を捨てて100m走の世界に没頭していくにつれて、作品の世界観は徐々にスピリチュアルになっていきます。スプリンターとしての熱意に圧倒されるような漫画を読んでみたい、そんなあなたにおすすめ!
ヘブンズランナー アキラ(全7巻完結)
約2メートルの身長に不気味な笑い方と、とにかくキャラが濃い主人公のアキラ。しかしその性根は意外にもけっこう繊細。奇行めいた言動が楽しいギャグ漫画としても、人付き合いが苦手な人が陸上競技を通して深いつながりを築いていく青春ドラマでもあります。第1巻と第2巻以降の表紙の急激な変化は一見の価値あり。
チェリー(全3巻完結)
ばかだけど憎めない!? ちょっぴり不純な同期で部活にいそしむ、チェリーボーイな陸上部員たちの日々を描く青春ギャグ漫画です。
作者の小沢敏夫(小沢としお)は不良漫画で有名ですが、今作の主人公はどちらかというと不良に振り回される側。性欲を持て余した少年たちの、おばかな言動にクスリとさせられつつも、決して暴力的にはならないデリカシーも備えたバランス感覚のよい作品です。ちなみに、100m走選手の主人公以外にも、砲丸投げを専門とする友人など多様な種目が登場します。
【陸上漫画おすすめ】マラソン編
長距離競技といえばやはりマラソン! 長時間にわたる過酷で孤独なレースは、短距離走とはまた違った緊張感に満ちています。個性的な作品も多いマラソンを描いた漫画のなかでも、特におすすめの5本をご覧ください。
マラソンマン(全19巻完結)
マラソン少年漫画といえばこの作品! かつてのマラソン界スターを父に持つ小学三年生の主人公・高木一馬。父をマラソン界に復帰させ、自身もランナーとしてのスタートを切るマラソン人生が描かれた逸作です。
一馬は作品開始時点では小さな男の子。ストーリーが進むにつれて社会人にまで成長していき、幾度も襲いかかる逆境を根性で乗り越えていきます。まるで実在の人物であるかのようなキャラクターたちの姿に、共感すること間違いなし。
奈緒子(全33巻完結)
天才ランナー、壱岐雄介の成長と活躍を描く長編漫画。療養のために長崎の離島を訪れた奈緒子は、走ることが大好きな雄介と出会います。ある日、父親が海で溺れた彼女を救いそのまま帰らぬ人となってしまい、雄介との仲は険悪に。それからしばらく経ち、東京に戻った奈緒子は雄介と再会しますが……?
こちらもマラソン漫画の代表格で、映画化もされた人気作です。語り手となる奈緒子のしっとりとした台詞回しが作品全体を落ち着いた雰囲気にしています。同時に、主役となる雄介の圧倒的な身体能力のおかげで、試合のシーンは非常にエキサイティング。続編である『奈緒子 新たなる疾風』もあわせて壮大な作品であり、じっくり漫画を読みたい方に手に取っていただきたいです。
続編はこちら。
GOLD DASH(全5巻完結)
昼は鳶職、夜はキャバ嬢を務め、夢は女の子だけの鳶会社の立ち上げ! そんな子持ちの蘭が、伝説の陸上部監督からスカウトされ、オリンピックを目指すハートフルストーリーです。
劇画的な絵柄と設定でインパクト絶大な本作。登場人物たちの顔がいちいちパワーに満ちあふれていて、ページをめくるだけで楽しくなります。しかし実際に読んでみると意外にもアクは強くありませんし、気づけばあなたも主人公と監督のコンビを応援していることでしょう。
ブルー・ジーン(全3巻完結)
不良高校生の日野数生は、普通の恋・青春を目標に女の子に告白するも、陸上部のイケメン・御堂が好きと振られてしまいます。負けず嫌いな数生は、御堂に勝つためマラソンの世界へ飛び込むことに。
陸上漫画は多くの場合、走り始めることで心身ともに健康になっていくものですが、数生はマラソンを始めてからもツッパリであることをやめません。けれども決して嫌なやつではなく、素直で単純な性格がかわいらしくもあります。真面目な漫画はちょっと苦手かも……という方にぜひ読んでほしい一作です。
リズム(全6巻完結)
知る人ぞ知るカルト漫画『打撃マン』の山本康人が手がけたマラソン漫画! 体育祭でのマラソン大会をきっかけに、マラソンの楽しさに目覚めた主人公・小岩井迅のスポ根ドラマが描かれます。
タイトルが暗示するような非常に独特なリズム感を持つストーリーがクセになる本作。大変濃密に描き込まれた肉体と、どこか浮世離れしたセンスの台詞が次々と繰り出されます。普通の漫画では物足りなくなってしまった方や、圧倒的な個性を持つキャラクターを見たい方におすすめ!
【陸上漫画おすすめ】駅伝編
例年の箱根駅伝が象徴するように、日本人にとって特別な位置づけにある陸上競技、駅伝。タスキをつないでいく選手たちの姿はいつも私たちを感動させてくれます。漫画でもまた、駅伝ランナーたちの心のドラマは多く描かれてきました。今回は厳選したおすすめの5作品をご紹介します!
ROAD
『Jドリーム』など数多くのスポーツ作品を生み出した、スポーツ漫画の巨匠・塀内夏子がおくる、一本のたすきをつなぐことに執念をかけた長距離ランナーたちの物語です。
この作品は2部構成であり、混成チームが駅伝に挑む姿を描く「輝ける道」と、成長した駅伝メンバーの一人がマラソンに挑む「ふたつの太陽」とに分かれます。スポーツ漫画としての躍動感だけでなく、選手たちの心の動きを映し出す叙情の美しさも兼ね備えています。それぞれの選手が抱えた熱い思いが胸に響く感動作です。
駅伝男子プロジェクト

’箱根’目指して再び輝け!青春駅伝物語!高3の夏、東北大会で敗れ、インターハイ出場の夢が絶たれた陸上800m選手の速田ハヤタ。家は貧乏で大学に行くお金もない。そのまま、地元で就職かと思っていた矢先、IT企業が買収した私立大が、全国で選考会を開催し、駅伝部員を募るプロジェクトを立ち上げたことを知る。選ばれれば学費免除、しかもチーム監督は人気トップアイドル!? どこか胡散臭さを感じながらも、心の中で「走ること」を諦めきれていなかったハヤタくんは、採用試験レースに挑むことに。だがしかし…レースはその場で組まれた急造チームで挑むハーフマラソンだったのだが、チームメンバーはバラバラでまったくまとまりなく!?
夢破れた中距離選手の速田ハヤタ。貧乏なこともあって大学へ行かず就職するつもりでいたところ、ある私立大が人気アイドルを監督に「駅伝男子プロジェクト」を立ち上げたことを知ります。選考会で選ばれれば学費免除という条件に、ハヤタは長距離へのチャレンジを決めます。
『最終兵器彼女』で知られ、箱根駅伝の選手でもあった高橋しんの最新作です。駅伝選手をアイドル的な存在としてプロデュースする大学プロジェクト、という一風変わった舞台設定が目を引く本作。さらに東北の震災復興の問題も絡められており、作品に対する作者の本気がうかがえます。また、かわいいキャラクターと軽快なテンポが読みやすい漫画でもあり、幅広い読者にオススメ。
群青
高校の女子駅伝部の汗と涙と青春を描く王道スポーツ漫画です。
主人公は憧れのランナーが教師を務める音無女学館へ進学するも、部活は駅伝部どころか陸上部すらありません。少しずつ集まっていく個性豊かな仲間たちは魅力的で、群像劇としても読み応えたっぷり。登場人物たちが持つトラウマに緊張感走る展開もありつつ、主人公の朗らかな雰囲気で、肩の力を抜いて読むことができます。
風が強く吹いている(全6巻完結)
陸上界の逸材だったカケルが寄せ集めの素人と箱根駅伝を目指すことに! 『舟を編む』の三浦しをんによる傑作青春小説のコミカライズです。実写映画化やアニメ化もされました。
友情と努力が交錯するなかで成長する青年たちの姿にフォーカスされている本作。レースの場面ではコマ割りが非常にダイナミックで、2ページを見開きで並べて読むことでその魅力を発揮するタイプの漫画です。原作小説ファンも必見!
ホイッスル(全13巻完結)

オリンピック開幕の年、スポーツメーカーアポロ繊維の陸上部監督が突然の自殺!後任の監督に抜擢されたのは、元陸上選手でありながら、陸上を憎む男、アポロ広報課主任の神藤邦彦だった。長年にわたりオリンピック代表選手を輩出できず、さらに監督の自殺でイメージダウンした陸上部をアポロ上層部は廃部にしようと考えているのだが…。10年ぶりにグラウンドに戻ってきた神藤が最初に行ったのは、フィールド競技選手全員の退部勧告だった。突然の陸上部縮小に動揺し反発する部員たち。神藤監督代理の思惑とは…!?会社のイメージアップ、宣伝にならなければ消滅してしまう弱小実業団陸上部が、部の存続の為、皆で苦難を乗り越えていく!感動的な人間ドラマとリアルな駅伝の魅力がぎっしりつまった女子駅伝漫画の決定版!
会社の宣伝事業としての陸上部というユニークな切り口がおもしろい! 良い結果を出せずに廃部の危機をむかえたスポーツメーカーアポロ繊維の陸上部。突然監督を任された広報課主任・神藤邦彦と部を続けるため、女子駅伝へ挑戦するスポーツドラマです。
勝利を目指すだけでなく会社側の思惑との折衝もしなければならないという大人な世界観が、学生の競技を描くことの多い陸上漫画のなかで異彩を放っています。骨太な作品を読みたいあなたに。
【陸上漫画おすすめ】パラスポーツ編
感覚や四肢など、身体的なハンデを持った人々のスポーツをパラスポーツといい、その選手たちのことをパラアスリートと呼びます。陸上競技にも数多くのパラアスリートたちがいますが、実は彼らを描いた漫画作品もたくさんあるのです。そのなかから3作品をご紹介します。
新しい足で駆け抜けろ。(全5巻完結)
左脚を失い義足で高校生活を送ることになった、元サッカー部エースの菊里。しかし、義肢装具士の千鳥に出会い競技用の義足を知り、パラアスリートになることを決意します。
短距離走のパラアスリートは、ブレードと呼ばれる競技用の義足を装着し、健常者とほとんど変わらない速度で走ります。競技のことはもちろん、アスリート用の義足を作る工房のことなど、幅広い情報が盛り込まれています。それでいて競技にかける情熱や努力、苦悩といったスポーツ漫画としてのおもしろさもばっちりで、どなたでも楽しめること間違いなし。
ブレードガール 片脚のランナー(全3巻完結)
『新しい足で駆け抜けろ。』の主人公が大腿義足のランナーだったのに対し、こちらは下腿義足で走る女の子の物語です。一度はふさぎ込んでしまった主人公が、ブレードとの出会いによって再び立ち上がり、文字通り走り始めるまでが描かれます。義足のための資金繰りなど現実的な事情も描かれつつ、走る楽しさに背中を押されて困難に立ち向かう姿に勇気をもらえる作品です。
ましろ日(全7巻完結)
視覚障がい者が伴走者とともに走る競技、ブラインドマラソンをテーマにした作品です。
舞台となるのは現代の広島。定期的に描かれる原爆ドームが象徴するように、どこか喪失感を抱えているような登場人物たち。ブラインドマラソンのランナーとして、伴走者としての挑戦をきっかけに、再び走り出していく心の動きが、美しさも汚さも含めて丹念に表現されている様子は圧巻。ゆっくり丁寧に読むことで味が広がっていくような作品です。
【陸上漫画おすすめ】その他の陸上競技編
以上で紹介したもの以外にも、陸上競技にはさまざまな種目が目白押し。投てき競技やトライアスロン、さらには架空のエクストリーム陸上競技まで! 個性豊かな陸上漫画はまだまだあります。以下ではそんなバラエティに富んだ作品からピックアップした6作品をご紹介します。
100Mのスナップ(全1巻完結)
少女漫画の大御所、『いつもポケットにショパン』のくらもちふさこによるハードル走をテーマとした中編の作品。この作品のおもしろさは陸上競技だけでなく、選手を撮影する写真部の男の子にもあります。走る姿を写真にするというテーマは、静止画を使って運動を表現する漫画というジャンルにピッタリ! ひたむきな選手たちの姿がより美しく際立ちます。
10月の満月に一番近い土曜日(全1巻完結)
大変過酷な競技であり、完走しただけでも「鉄人」と呼ばれることになるトライアスロン。ハワイで行われる鉄人レースに挑む人々を描いた、オムニバス形式の作品です。
トップ争いよりも、ランナーの内面に重点を置いている本作。家族や恋人への思い、プロとしての譲れない意地を抱えながら走る選手たちの姿に感動必至です。
木倉さんと三人三脚(全3巻完結)
強い肩を持ちながら球技が苦手な主人公が、その肩を見初められやり投げに挑戦することになった異色のやり投げラブコメです。ヒロインの兄はやり投げの名選手でしたが今は故人。彼の幽霊がヒロインにとりつきながら、自分を超える選手にするため主人公を鍛えあげていきます。
やり投げという珍しい題材を描いているだけでなく、「肉体は女性だけど人格は男性」という、TSF(トランス・セクシュアル・フィクション)要素があるのも特徴のひとつ。やり投げのシーンは練習・競技ともに本格的に描かれており、最後までエキサイティングな展開が続きます。主人公が初心者から成長していく姿も感動的!
Jog! Jog! Jog!(全2巻完結)
競技に限らずとも、走ることを生活にとりいれるのは素敵なこと。『Jog! Jog! Jog!』は高校のジョギング同好会を舞台に、日常のなかで走ることの楽しさを描いた作品です。とはいえ時には本気の陸上競技会が描かれることも。真剣な彼女たちの姿勢が、作品の魅力をぐっと深めていきます。百合要素も含んでおり、女の子が仲良くする様子が好きな方にもおすすめ!
カゼキル GREAT TRAIL RUNNERS
中学時代の大会の怪我がトラウマになり、陸上をやめた主人公・扇谷颯太。山岳レース・トレイルランニングのプロ守山啓介に出会ったことで、颯太の陸上人生がおおきく変化することに。
オフロードどころではない、川や岩肌を含んだ山岳の不整地を走る競技、トレイルランニングを題材にした本作。比較的新しい競技ということもあって、一般的に想像される陸上競技とは全く異なるレースが繰り広げられます。知識やノウハウの説明も含めて、トレイルランニングの楽しさを臨場感あふれるタッチで描く意欲作です。
BA-KU(全3巻完結)
妹の手術費を稼ぐため沖縄から出てきた少年が、エクストリームな障害物競走に挑む物語であり、今回ご紹介するなかでもっとも激しい競技シーンが繰り広げられる作品です。
トライアスロン漫画と銘打たれていますが、描かれているのは完全に現実を超越した超人的陸上競技。針地獄やライオンの檻をかいくぐる、他の選手を殴る蹴るで妨害するルール無用な競技模様に圧倒されること間違いなし。主人公が並外れた身体能力でレースを乗り切る様子に注目です。
終わりに
陸上競技を描いた漫画の見どころは、やはりスピード感あふれる作画。一方で、ルールがシンプルなぶん、登場人物の心理描写が丁寧なところも作品の特徴です。だからこそ、少年漫画だけでなく少女漫画やサラリーマン漫画まで、幅広い年齢層に向けて作品が描かれているのでしょう。
最後に、今回ご紹介したなかで書店員があえてイチオシを選ぶなら、くらもちふさこの『100Mのスナップ』です。気軽に読みやすいボリュームに加えて、ハードル走というモチーフの使い方が非常に巧みな素晴らしい作品です。ぜひ読んでみてくださいね!
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