才能は時に人を不幸にする—異色の野球漫画『ダイヤモンドの功罪』(どくしょ部おすすめ特集1)

 「DMMブックスどくしょ部おすすめ特集」は、年間1,000冊近く漫画を読んでいるDMMブックスの書店員たちがおすすめ作品を紹介するシリーズ企画。第1弾は平井大橋の初連載作品『ダイヤモンドの功罪』です。本作で描かれるのは、勝利を目指して団結する姿ではなく——?(担当:書店員M)

天才が周囲を狂わせていく『ダイヤモンドの功罪』

 今回のおすすめはこちら。『週刊ヤングジャンプ』で今年連載を開始した、天才ピッチャーの才能と悲哀を描く野球ドラマです。
 作者は平井大橋。2020年に40漫画賞野球部門にて「ゴーストバッター」「ゴーストライト」の2作品が佳作をW受賞。2021年にはヤングジャンプのシンマン賞97回にて「可視光線」で佳作を受賞。本作『ダイヤモンドの功罪』が初連載です。

『ダイヤモンドの功罪』のストーリー

ダイヤモンドの功罪 1

ダイヤモンドの功罪 1

「オレは野球だったんだ!」 運動の才に恵まれた綾瀬川次郎は何をしても孤高の存在。自分のせいで負ける人がいる、自分のせいで夢をあきらめる人がいる。その孤独に悩む中、’楽しい’がモットーの弱小・少年野球チーム「バンビーズ」を見つける。みんなで楽しく、野球を謳歌する綾瀬川だったが…。

 『ダイヤモンドの功罪』の主人公・綾瀬川次郎は、どんなスポーツをはじめてもすぐに結果を残す、運動の才能にあふれる少年です。しかし、彼はあまりにも才能に恵まれすぎているため、どこに行っても周囲から浮いてしまい、スポーツを楽しめないでいました。
 ある日彼は、偶然見かけたチラシに心ひかれて弱小の野球チームに入会。チームメンバーにもあたたかく迎え入れられ、人とスポーツを楽しむ嬉しさをはじめて知ります。

野球の楽しさを知った綾瀬川(1巻1話より)

 しかし、その圧倒的な才能が、大人やチームメンバーを巻きこみながら、悲しい波乱を生んでいくことになります……。

『ダイヤモンドの功罪』の魅力 才能が人を幸せにしないという皮肉

 『ダイヤモンドの功罪』で描かれるのは、「圧倒的な才能が周囲を狂わせていく」というインパクトのある展開。これが連載当初から大きな話題を呼んでいます。
 綾瀬川は小学生にして160センチを超える恵まれたフィジカルと、見よう見まねで変化球を投げられる圧倒的な才能の持ち主です。周囲の大人は強烈な期待を寄せる一方で、同年代の子どもたちは彼を前に嫉妬や挫折、焦燥感や劣等感を抱きます。

綾瀬川が日本代表の一次選考通過を告げられる場面(1巻1話より)

(チームの監督が、綾瀬川に内緒で日本代表選考に応募したことを告げる場面。監督の表情が見えない演出はまるでホラー漫画のよう。)

 しかし、綾瀬川自身が一番望んでいるのは「楽しむ」こと。彼は自分のせいで周囲の人が苦しむ姿をみてきました。自分に負けて泣く子、自分と比較されて親に怒られる子を見てきたことで、彼は「楽しくない」ことへ強い忌避感を抱いています。
 自分が野球を全力で楽しむと、チームメイトが苦しむ……才能が人を苦しめるという皮肉が、悲しくも魅力的なドラマをもたらしています。
 
 本作最大の魅力は、綾瀬川の才能が、周囲だけでなく自分自身を苦しめていることにあります。そして、だからこそ残酷なのが、綾瀬川自身も周囲の気持ちが理解できないことです。

 彼は、野球をはじめて数ヶ月で日本代表に選ばれる程の才能の持ち主。しかしそれは、彼は「何かができないこと」「人と比べて劣ること」の苦しみを感じたことがないということでもあります。そのため、彼に比較される周囲の子たちや、猛烈な努力をして日本代表に選ばれた他メンバーの気持ちもわかりません。
 野球は勝利を目指していくもの。しかし、綾瀬川にとって重要なのは戦うこと・勝つこと以上に「楽しむ」ことです。この残酷なまでの感覚の差が、周囲とのズレを大きくし、彼をどんどん孤独にしていきます……。

綾瀬川の圧倒的な才能にコーチは驚く(1巻1話より)

 作品の内容を考えると、『ダイヤモンドの功罪』というタイトルが秀逸なのがわかります。ダイヤモンドのように燦めく才能、それはただ美しいだけではなく、美しいからこそ残酷なくらいに人を苦しめる……。綾瀬川の在り方を的確に表していると言えるでしょう。

 ちなみに、平井大橋が過去に発表した読み切りは全て、綾瀬川やその周囲の選手に関する話です。
 『ダイヤモンドの功罪』は彼が小学生の頃からスタートしますが、「ゴーストライト」は彼がプロ野球選手になった頃の話、「可視光線」は綾瀬川と同学年のバッテリーコンビ・巴円(ともえ・まどか)と雛桃吾(ひな・とうご)の中学時代の話です。円と桃吾は『ダイヤモンドの功罪』にも登場するキャラクターですので、『ダイヤモンドの功罪』の世界観をより深く楽しみたいなら、一読をおすすめします。2023年6月時点でどの作品もウェブで無料公開されています。

終わりに

 7月19日発売予定の2巻は、日本代表チームのチーム合宿編が描かれています。
 1巻の最後、綾瀬川が不用意に発した言葉が原因で、チームメンバーの桃吾から殴られる事件が起きてしまいました。チームに不協和音が響く中、監督はある思惑から、強豪中学生チームとの練習試合に綾瀬川を出場させることに。人生初登板の中、彼は喧嘩した相手である桃吾とバッテリーを組むことに……。
 
 『ダイヤモンドの功罪』は2023年6月現在、『週刊ヤングジャンプ』で好評連載中。一度読めば、残酷な才能が巻き起こす青春野球ドラマに目が離せなくなること間違いなし。ぜひこの機会に読んでみてください。

ダイヤモンドの功罪 2

ダイヤモンドの功罪 2

「オレが守ったんは円のプライドや」 やっと見つけた居場所、バンビーズを退団することになった綾瀬川次郎。自分の居場所を求め、かすかな望みを胸に抱きU12日本代表合宿に参加をする。しかし、選考会の時に仲良くなった雛桃吾と衝突をしてしまい…!?

 DMMブックスには、無料で試し読みできる作品や、キャンペーン中の電子書籍がたくさんあります。無料のビューアーとアプリで簡単に読むことができるので、ぜひお試しください!

関連記事

 今回の記事でご紹介した漫画が好きな方は、以下の記事もおすすめ!
名作から新作まで! おすすめ野球漫画
夏は甲子園で盛り上がる! おすすめ高校野球漫画
スポーツで熱い感動を! おすすめスポーツ漫画

人気の記事