ヤマシタトモコの連載漫画『違国日記』が2023年6月に最終回を迎え、同時に実写映画化も発表されました。今回は映画化を記念し、ヤマシタトモコ作品のファンであるDMMブックスの書店員がおすすめを10作厳選してご紹介します。映画化やアニメ化された『さんかく窓の外側は夜』から初期作の読み切りやエッセイまで、作風の広さを感じられる名作をピックアップしました。
目次
おすすめのヤマシタトモコの長編シリーズ
BUTTER!!!(全6巻完結)
高校生の社交ダンス部を舞台にした少年少女の青春漫画です。
本作は「他人の視線や評価を気にせず、真面目に向きあうこと」のすばらしさと大変さを描いているのが魅力です。同級生からの嫌がらせで無理やり入部させられた子や、一つのことに取り組むのを怖れる子。それぞれ悩みを抱える高校生たちが、部活の仲間とぶつかりつつも互いを理解し、前に進んでいきます。正統派の青春漫画を読みたい方におすすめです。
さんかく窓の外側は夜(全11巻完結)
繊細で不器用な人間ドラマを描き漫画賞をマンガ大賞に2019年、2020年と連続ノミネートされた『違国日記』の作者・ヤマシタトモコが描くミステリーホラーです。2020年に岡田将生や志尊淳など豪華キャストで実写映画化。2021年にはテレビアニメ化された人気作です。
人には見えないものが見える青年・三角康介と、除霊を生業にする青年・冷川理人の二人がバディを組み、怪奇現象に関する依頼を解決していきます。
キャラクターの背景や関係性が少しずつ深掘りされていき、最終的にバディ二人の出自にかかわる大きな秘密に迫っていくなど、ストーリー構成が巧みです。シンプルながらもギョッとするような心霊・怪異描写が光りつつ、掛け合いも楽しめるので、読み応え抜群です。二人の関係性もエロティックだったりと、BL(ボーイズラブ)作品としての魅力も大きいです。
エンターテイメント色の強いミステリーホラーが好きな人におすすめしたい作品です。
違国日記(全11巻完結)

【電子限定!雑誌掲載時のカラー原画を特別収録!】35歳、少女小説家。(亡き母の妹) 15歳、女子中学生。(姉の遺児) 女王と子犬は2人暮らし。少女小説家の高代槙生(こうだいまきお)(35)は姉夫婦の葬式で遺児の・朝(あさ)(15)が親戚間をたらい回しにされているのを見過ごせず、勢いで引き取ることにした。しかし姪を連れ帰ったものの、翌日には我に返り、持ち前の人見知りが発動。槙生は、誰かと暮らすのには不向きな自分の性格を忘れていた……。対する朝は、人見知りもなく、‘大人らしくない大人’・槙生との暮らしをもの珍しくも素直に受け止めていく。不器用人間と子犬のような姪がおくる年の差同居譚、手さぐり暮らしの第1巻!
累計販売数125万部を突破した、ヤマシタトモコの代表作の一つです。人気女優・新垣結衣が主演を務め、瀬田なつき監督で2024年全国ロードショー予定です。
両親を事故で亡くした少女・朝は、人見知りで小説家の叔母・高代槙生(こうだい・まきお)と同居することに。若くして親を失った朝に対して、槙生はできるだけ誠実に接します。しかし、孤独を苦に思わない(むしろ人と暮らすのが苦手ですらある)槙生は、朝の孤独を完全には理解できません。人が人に向きあうこと、その中ですれ違ったり、それでも他人とつながることの難しさ・大切さを描いたヒューマンドラマの名作です。
花井沢町公民館便り(全3巻完結)
外界から隔離された近未来の地方都市を舞台にした、ビターでダークなヒューマンドラマの群像劇です。
2055年に発生したシェルター技術の事故により、花井沢町は透明な壁によって隔絶されてしまいました。その小さな町の住民は、最後の一人になるまで一生外に出ることができません——。
町の住人が最後の一人になるまでを、群像劇形式で描いた本作。隔絶された空間で起きるエピソードは、呑気でユーモラスなものから、サイコホラーなエピソード、救いのない絶望的なものなどさまざま。少しずつボロボロになっていく町の描写もあいまって、読者に強烈な読後感を残してくれます。
ひばりの朝(全2巻完結)
14歳の少女・手島日波里は、同い年の中では少し体つきが「目立つ」少女。彼女にまつわる一つの「噂」がきっかけとなり、周囲の人々に不協和音が静かに広がっていきます……。
本作は、ヤマシタトモコ作品の中でも特に人間が持つ残酷な面がリアルに描かれています。人間の無神経な側面や、人が人を救うことの難しさ、まだ子どもでしかない中学生の無力さが暴かれていきます。女の子が性的な目線を向けられることのおぞましさと救われなさを強烈なかたちで描く怪作です。
おすすめのヤマシタトモコの短編・読み切り集
運命の女の子(全1巻完結)
数あるヤマシタトモコ作品の中でも、筆者イチオシの作品がこちら! 3つの名編が収録された傑作短編集です。
日本国民全員が呪いを授けられる世界を舞台に、唯一呪いをかけられなかった少女が日本をゆるがす大事件に巻き込まれる「不呪姫と檻の塔」などが収録されています。選ばれなかった者と選ばれた者の不安と恐怖……現実離れした設定ながら、リアリティのある巧みな演出にゾクゾクします。
サスペンスホラーに現代ファンタジーと、1冊で異なるジャンルを楽しみたい方におすすめです。
ドントクライ、ガール(全1巻完結)
高校生の少女が家族の事情で預けられたのは、毎日裸ですごす男性の家でした……。
アクロバティックな状況下で、矢継ぎ早に繰り出されるハイテンションのかけあいが魅力。ヤマシタトモコ作品の中でも特に軽快なコメディ漫画です。ヤマシタトモコの新しい魅力に気づくこと間違いなしなので、本作に触れたことがない方は、ぜひ一読いただきたいです。
サタニック・スイート(全1巻完結)
親に見捨てられた少女が借金返済のため、魔法使いとしての特殊技能を活かしてヤクザ事務所で働く「サタニック・スイート」など、初期作品が多数収録された短編集です。
筆者のおすすめは「MUD」。退屈な日々を過ごす少女がはじめて抱いた胸のときめきを「はじけ飛ぶ心臓」として表現したり、漫画ならではの表現が光ります。女子高生と教師が変態性癖を介して結ばれる話なので、題材と表現のギャップにより驚かされることでしょう。
ヤマシタトモコ本人を深く知るための2冊
ヤマシタトモコのおはなし本(全1巻完結)
ヤマシタトモコのインタビューが200ページ近く載っているのがこちら。2015年頃までのインタビューの再録と、それまでの発表作品すべてを紹介し作者本人のコメントも収録されています。
BL作品を中心に「登場人物のその後」のイラストも載っており、ヤマシタトモコ作品ファンであれば必読の1冊です。
終わりに
最後に、筆者が考えるヤマシタトモコの魅力についてご紹介します。
ヤマシタトモコのすごいポイントは、やはり作風の広さです。BLはもちろん、高校生の青春ものからオカルトホラー、ファンタジー作品も名作が勢揃いです。『ドントクライ、ガール』のような底抜けに明るい話と、救いのないビターでダークな『ひばりの朝』など、異なるトーンの作品を生み出せるのが驚異的です。
ちなみに、BL系の作品も単巻漫画で10冊近く出ています。BL作品が好きな方は『ヤマシタトモコのおはなし本』などもぜひチェックしてみてください。
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