満州を舞台にしたおすすめ漫画12選

 『満州アヘンスクワッド』の13巻が2023年6月6日に発売されました。満州とは中国の東北地方一帯を指す地名。1932年から1945年には日本の傀儡国家・満州国が存在していました。
 『昭和天皇物語』『ひねもすのたり日記 』『スパイの妻』など満州を舞台にした作品は昨今話題になっています。そこで今回は、年間1,000作品近く漫画を読んでいるDMMブックスの書店員が、満州が描かれたおすすめ漫画を12作ご紹介! 大御所作家が描いたフィクションから、引き揚げ体験を描いたエッセイ漫画までジャンルはさまざま。肩肘張らずに夢中になれる作品ばかりなので、ぜひチェックしてみてください。

実在の人物が主人公の伝記漫画・エッセイ

 昭和天皇の人生を描く名作や、有名漫画家やその親族をモデルにした作品、あの大御所作家の最新エッセイ漫画など4作品をご紹介します。

昭和天皇物語

昭和天皇物語

昭和天皇物語

今世紀最大の話題作、ついに単行本化!!大元帥陛下して軍事を、大天皇陛下として政治を一身に背負い昭和という時代を生き抜いた巨人。波瀾万丈という言葉では表せないほどの濃密な生涯に半藤一利氏協力のもと、漫画界の巨人・能條純一氏が挑む――「ビッグコミックオリジナル」誌で毎号にわたり衝撃を呼ぶ巨弾連載、待望の第1集は、その少年時代が大胆な解釈と圧倒的な画力で描かれる…!

 タイトル通り、昭和天皇・裕仁を主人公にした歴史漫画です。迪宮(みちのみや)と呼ばれた里子時代、皇太子として外遊に出た青年期、後の皇后・良子女王との出会い、即位後の昭和時代と、昭和天皇がたどった激動の人生を丁寧に描写していきます。
 満州にフォーカスがあたるのは、満州事変が起こる8巻後半から。日本の未来を巡ってさまざまな軍人や政治家の思惑が錯綜し、混乱を極めていく様子が事細かに描写されています。
 半藤一利の原作に、能條純一による繊細かつ大胆な描線が驚くほどマッチしています。巨大な時代のうねりの中で翻弄された人々の人間ドラマに圧倒されることでしょう。

フイチン再見! (全10巻完結)

フイチン再見! (1)

フイチン再見! (1)

漫画家・上田としこ。1917年(大正六)生まれ、2008年(平成二〇)没。これは、まだ誰も歩いたことがなかった「女流漫画家」という道を拓いた一人の実在した「女」を主人公とした物語である。上田としこという一人の素っ頓狂な少女が、戦前の満州ハルピンの高く広い空に、想像の絵を思いうかべた時から、日本の、女の、「漫画の歴史」ははじまったともいえる。村上もとかが渾身の力を込めて描く、漫画の青い青い春。待望の単行本第1集!

 伝説の女性漫画家の人生に迫る! 
 女性漫画家の草分け的存在であった、上田としこの伝記漫画。満州ハルピンで生まれ、男尊女卑と戦いながら気高く生きた上田としこの人生を描いた作品です。
 満州漫画としての魅力は幼少期のエピソード。北満州のハルピンに住んでいた少女時代、上田としこはロシア人、ユダヤ人、中国人の子供たちと言葉の壁を越えて遊んでいました。思春期に東京で漫画家を志した後、第二次大戦期には南満州鉄道に就職。戦後にはその経験を元に漫画『フイチンさん』を発表し、女性漫画家として一世を風靡しました。
 戦後の女性漫画化時代を描くのは6巻以降。松本かづちや田河水泡、手塚治虫らも出てくるなど、戦後日本漫画史の伝記としてもおすすめです。

紅にほふ(全2巻完結)

紅にほふ (1)

紅にほふ (1)

「ヘタクソ」だけど「出たとこ勝負」の気風は、今でもわたしに引き継がれています――。多くの日本人が新天地を求めて満州(現在の中国北東部)に渡った、大正末期。芸者の置屋では、女将に引き取られた幼いふたりの少女がいた。芸妓として育てられる咲子、家事をこなす梅子、そして、のちに生まれた置屋の娘・初子――血のつながりのない三姉妹は、時代に翻弄されながらも三者三様に激動の時代を生き抜いていく。収録作品:第1話 / 第2話 / 第3話 / 第4話 / 第5話 / 第6話

 『風と木の詩』や『地球へ…』の竹宮恵子が、母方の家系をモデルに描いた作品です。
 日露戦争後の満州で置屋を営んでいた祖母と母、芸者で血の繋がらない二人の叔母・咲子と梅子、4人の人生が描かれます。戦後に生きる少女の現在視点と、母たちの回想とを織り交ぜながら、置屋という特殊な環境とそこで生きた女性たちの生き様を叙情たっぷりに描写します。満州建国前から戦後復興期の時代描写や、竹宮恵子の華麗な描線で描かれた芸妓の絵が魅力です。

ひねもすのたり日記

ひねもすのたり日記 (1)

ひねもすのたり日記 (1)

ジョーも松太郎もてつやから。名作の裏に…いつしか老作家となったマンガ家・ちばてつやは、様々な社会的役割を務め多忙だった。だが…ある日、コミック雑誌から執筆依頼が来た。最初断ろうと思ったちばだが、その脳裏には幼い頃の満州の物凄い夕焼け、人生の節目で出会った素晴らしい人々、そしてどんなときも不器用に苦しみながらマンガを描いてきた自分の姿が去来する。オールカラーショートコミックで描く半生の記。ちばてつや18年振りの最新作、今ここに結実!

 オールカラーによる、巨匠・ちばてつやの衝撃の半生!
 『ビッグコミックオリジナル』で現在も連載中の、ちばてつや自身の自伝漫画です。子供時代の視点で当時の記憶を描いた満州引き揚げ放浪記と、現在のちばてつやの日常生活が交互に描かれています。
 暗い戦争の話と朗らかな日常の話との間には、松本零士やさいとうたかを等、大御所漫画家たちとの牧歌的エピソードが挟まれることも。歩んできた人生の奥深さにぐいぐいと引き込まれます。
 悲惨な戦争の時代と、その中でのさまざまな出会いと別れが、暖かみのある線と色彩で描かれるのが見事。巨匠漫画家の最新作をぜひお楽しみください。

満州をテーマにした歴史漫画

 大胆なストーリーが展開される歴史フィクションをはじめとして、さまざまなアプローチで満州を描いた8作品をご紹介します。

満州アヘンスクワッド

満州アヘンスクワッド (1)

満州アヘンスクワッド (1)

「満州で一番軽いものは、人の命だ」時は昭和12年。関東軍の兵士として満州にやってきた日方勇は、戦地で右目の視力を失ってしまう。「使えない兵隊」として軍の食糧を作る農業義勇軍に回され、上官に虐げられる日々を送るも、ある日農場の片隅でアヘンの原料であるケシが栽培されていることに気づく。病気の母を救うためアヘンの密造に手を染める勇だったが、その決断が自身の、そして満州の運命を狂わせていく…。

 手に汗握るクライムサスペンス漫画!
 戦時中の満洲を舞台に、幼い兄弟を育てるお金を稼ぐため、阿片(あへん)製造に踏み切る若者を描いた物語です。
 差し挟みこまれる暴力シーンや阿片窟の描写など、迫力のあるページが満載です。目を背けたくなる展開が連続するのにもかかわらず、あの手この手で軍部を出し抜く主人公たち。その姿は読者に爽快感を覚えさせ、一気に物語へと引き込みます。
 果たして主人公たちは、満州を牛耳る阿片王に上りつめることができるのか。今続きが気になる漫画の一つです。

龍-RON-(ロン)(全42巻完結)

龍-RON-(ロン) (1)

龍-RON-(ロン) (1)

次第に戦争へと傾斜していく昭和初期の京都を舞台に、ひたすら剣の道を極めんとする男・龍の破天荒な生き方を描く!!

 これぞ大河ドラマ! 圧倒的スケールの一大叙事詩!
 『ビッグコミックオリジナル』で16年間にも渡って連載された、『六三四の剣』や『JIN-仁-』の村上もとかによる歴史漫画です。戦前の京都や満州の風景描写、そして丁寧な時代考証が物語の厚みを確かなものにしています。
 2.26事件を境に、物語が新展開へ舵を切るのが見どころ。甘粕正彦、石原莞爾、満州鉄道といった実在のモチーフに加え、幼なじみの芸者・小鈴とのロマンス、貧農の娘・ていとの出会いなど、エンターテインメント大作として楽しめる作品です。

フイチンさん 復刻愛蔵版

フイチンさん 復刻愛蔵版 上

フイチンさん 復刻愛蔵版 上

伝説的傑作、歴史的復刻!ビッグコミックオリジナルの話題の連載、村上もとか『フイチン再見!』の主人公のモデルとなったのが、長谷川町子と並ぶ「女性漫画家」の開拓者上田としこ。まだ、漫画家という職業も、まして女性の漫画家などその存在すらなかった時代に、その道を切り開いた上田としこの代表作が『フイチンさん』である。作者の満州体験を下敷きに、ハルピン一の素封家の下で、門番の父親と暮らす天真爛漫な女の子フイチンのエネルギッシュな活躍を描いた本作は、1957年〜1962年「少女クラブ」で連載され大人気となり、当時としては異例の長期連載となった。あの手塚治虫氏も、上田としこを高く評価し姉のように慕っていた。単行本は何度か刊行されたものの、いずれも未完で、刊行されてもアミが抜け落ちていたり、扉が欠けていたりと不完全なものだったが、今回、連載時の雑誌、各種単行本、また新たに発見されたカラー原稿などを付け、初めてほぼ完全な形で、復刻する。上巻には、カラー扉を多数収録、村上もとかの書き下ろしエッセイ収録。

 先にご紹介した『フイチン再見!』にも出てくるのが本作『フイチンさん』。穂村弘、奈良美智、高野文子など、ジャンルを超えたさまざまな漫画家から愛される伝説の作品です。あの手塚治虫も上田としこを高く評価していました。
 ハルピンで一番のお金持ち、リュウタイ家のリイチュウ坊っちゃんの遊び相手として雇われたフイチンさんが、明るく元気いっぱいに働きながら動き回ります。
 なにより魅力的なのは、フイチンさんのすらっとした肢体となめらかな動き。高い画力によるしなやかな線で描かれた元気なフイチンさんの姿は、モダンな印象を与えてくれます。

紫丁香夜想曲(全1巻完結)

紫丁香夜想曲

紫丁香夜想曲

昭和12年の満州国で、鬼堂院将臣は中国娘と偶然出会い…。「円舞曲は白いドレスで」の番外編である表題作他3編収録。

 テレビアニメ『少女革命ウテナ』のキャラクター原案や漫画『とりかえ・ばや』などが有名な、さいとうちほによる短編集です。
 『円舞曲は白いドレス』シリーズの一編である表題作「紫丁香夜想曲」は、満州国を舞台にした中国娘と将校とのロマンス。宝塚歌劇団の舞台を思わせるような華麗な画風で描かれる、壮麗な晩餐会の場面は必見です。

虹色のトロツキー (全8巻完結)

虹色のトロツキー (1)

虹色のトロツキー (1)

幼い頃に記憶と家族を失った日蒙二世の青年・ウムボルトは、赤化運動の折、憲兵に捕まり拷問を受ける。しかし、関東軍参謀・辻政信によって釈放され、日本軍統治下の満州に建てられた建国大学に入学する事になった。そこで、ロシア赤軍を創ったトロツキーが父の知り合いであること、自分はトロツキーを招き入れる為に軍上層部の思惑によって学校に入れられた事を知らされる。旧満州を舞台に日本軍の政治的陰謀に巻き込まれながらも、強く生き抜く青年の物語が今はじまる。

 安彦良和が描く、第二次大戦突入直前の激動の中国大陸を舞台にした青春歴史ロマンです。
 ウムボルトは幼少期に家族を亡くした、日本人とモンゴル人のハーフ。満州の建国大学に通っていますが、軍人だった父と、その知人トロツキーが絡んだ日本陸軍の政治的陰謀に巻き込まれていきます。
 石原莞爾、辻政信、甘粕正彦、安江仙弘、松岡洋右といった実在の人物が、安彦良和の描線によって活き活きとしたキャラクターとしてよみがえり、優美に立ち回ります。戦争の惨さや日本のずさんな満州統治に対して怒り、奔走する主人公の姿が見所です。
 安彦良和の仕事で有名なのは『機動戦士ガンダム』の作画監督・キャラクターデザインですが、漫画家としての代表作としては本作が外せません。

国が燃える

国が燃える 第1巻

国が燃える 第1巻

昭和初期の日本。不況から脱しきれないまま軍部の台頭を招き、熱く激しい時代を迎えようとしていた。若き商工官僚・本多勇介は時代の流れに翻弄されながらも、人間として正直さを貫こうとする。果たして「人間によって過った流れは、人間によって修正できるのか?」全ての日本人に贈る歴史巨編!

 本宮ひろ志が描く超大作歴史ロマン! 東北の小作人だった主人公が大地主の養子になり、商工省の官僚として駆け上がっていく物語です。
 そもそも日本はなぜ満州に進出したのか。当時の農民はどんな心境だったのか。蒋介石、石原莞爾、岸信介、橋湛山といった当時の指導者らが主人公の目を通してリアルに描かれています。
 『虹色のトロツキー』とあわせて読むことで、脱植民地政策に至る時代の流れをつかむ役に立つ作品です。

スパイの妻(全2巻完結)

スパイの妻 (1)

スパイの妻 (1)

銀獅子賞受賞作品、渾身のコミカライズ!!太平洋戦争前夜。神戸の貿易商・福原優作は物資を求めて赴いた満州で、驚愕の国家機密を知ってしまう。正義感から世界に公開しようとする優作に、妻の聡子は……戦火に秘された恋愛/サスペンス。第77回ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞受賞。黒沢清監督作品、初のコミカライズ。

 ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞を受賞した映画をコミカライズ!
 太平洋戦争前夜の神戸が舞台。日本軍の満州での非人道的な行いを知った貿易商の優作は、その証拠を持って渡米しようと試みます。妻の聡子も夫についていこうとしますが、別行動を取ることになり……。
 不審な軍部、町の人々、そして夫。「あなたがスパイだというのなら、私はスパイの妻になります」とまで言い切った聡子の行く末に目が離せません。
 映画の原作は、監督・黒沢清、脚本・濱口竜介。映画とは異なる展開、衝撃的なラストに驚かされることでしょう。

まんちゅりい・ぶるうす(全3巻完結)

まんちゅりい・ぶるうす 1

まんちゅりい・ぶるうす 1

ときに昭和20年――やけつく太陽が満州の原野をじりじりとこがしていた……。取り残された日本軍の小隊は、絶望の淵に立たされ、国へ帰ることを渇望していたが、国境に居残りを命じられ迫りくるロシアの戦車隊に踏み潰されるのを待つのみであった。特務機関の黒木が連隊長のもとへ向かうと、そこには無残にいたぶられ捨てられた一人の女が横たわっていた。黒木とその女は旧知の仲であった……。激動の時代を生き、明日を求めてあがいた男と女の物語を集めた、傑作劇画短編集!

 圧巻の画力で満州を描く、70年代劇画アクション!
 テレビドラマ化された『湯けむりスナイパー』などで有名な松森正による、昭和20年代の満州を舞台にした連作短編集です。漫画家・佐藤まさあきのアシスタント出身で、小池一夫原作漫画の作画を務めた松森正による迫力のガンアクションが魅力。官能的な女性たちとのドラマに酔いしれてしまいます。

終わりに

 おすすめの満州を舞台にした漫画はいかがでしたか? 有名作家の伝記やエッセイとして、戦前の満州生活が描かれていることに驚かれた方もいるのではないでしょうか。満州国が存在した頃の日本が、より身近なものに感じられるはずです。
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