書店員を中心に、普段から漫画の現場で漫画に接している屈指の漫画好きが選出する「マンガ大賞」。今回は、2023年の「マンガ大賞」二次選考ノミネート作品を特集します。衝撃的な展開でSNSで物議を醸したあの作品や、独自の世界観を貫く漫画家・山口貴由の最新作、漫画愛にあふれたあの作品など、いずれも2020年代を代表する作品になるであろう話題作がめじろ押し! 現在の漫画トレンドを把握するのに欠かせない、「マンガ大賞」のノミネート作をチェックしてみてください。

目次
2023年マンガ大賞ノミネート作品
Twitterで話題になった『タコピーの原罪』から、2023年「このマンガがすごい!」オンナ編第1位の『天幕のジャードゥーガル』まで、数々の話題を呼びつつある2023年の漫画をご紹介します。
正反対な君と僕
ハイスクールストレートラブコメディ!
元気いっぱいの少女・鈴木と物静かな男子・谷くんを中心に繰り広げられる青春ドラマです。二人とそのクラスメイトを通して、青春時代のみずみずしい悩みや葛藤、そして恋心を描きます。
本作の特徴は、鈴木と谷くんが1話で付き合い始めること。付き合うまでのドキドキではなく、付き合う中で関係性が深まっていくのを丁寧に描いており、本作最大の魅力です。
作者・阿賀沢紅茶は、前作『氷の城壁』から「人間関係の微妙なあるある」を描くのが得意でした。『正反対な君と僕』でもその長所は健在なだけでなく、「あるある」をポップかつテンポ良く描いています。ハッピーだけどどこか泣けるラブコメ漫画を読みたい方におすすめです。
日本三國
衝撃に次ぐ衝撃の展開!
荒廃した近未来の日本を舞台に、3つの国に分かれた日本を再び統一するために立ち上がる主人公を描いた作品です。妻を斬首された夫が復讐の旅に出るという冒頭から、物語は知謀に長けた主人公と、彼の所属する辺境将軍隊たちによる戦略群像劇の様相を見せていきます。
近未来日本の風景の中で、国盗り合戦のストーリーが展開されることや、艶やかな描線で描かれたキャラクターたちがケレン味たっぷりに描かれるのが魅力の本作。作者が影響を公言している二宮志郎作品や、アシスタント経験のある花沢健吾作品などのダークな作風を感じさせます。
あかね噺
少年ジャンプ発、真剣落語ヒロイン漫画!
父の落語を幼い頃から見ていた主人公・朱音が、落語家として認められることがなかった父の雪辱を果たすために真打を目指していきます。落語の技を漫画的表現に落とし込み、スムーズなテンポのなかで読ませてくるのが見事です。
復讐劇でありながら、主人公がどのように芸道の世界で成長していくのか、先の展開が気になる作品です。
女の園の星
『夢中さ、きみに』『カラオケ行こ!』の和山やま初連載作! 数々の漫画賞を受賞した大人気シュールギャグコメディ。
女子校の担任・星先生の日常を描いたローテンションギャグ漫画です。女子生徒たちのフレッシュなテンションと、10代のノリについていけているのかわからない星先生との絶妙な関係性にリアリティがあり、夢中になる本作。ゆるいテンポと乾いたギャグの息づかい、シュールな雰囲気になぜか笑ってしまいます。
絵しりとりの絵、生徒の描いた漫画、観察日記など、積み重ねられていく細かすぎるネタの数々を探すのも読む楽しみの一つです。
劇光仮面
藤本タツキも絶賛! 「このマンガがすごい!」オトコ編5位にランクインの異色作。『シグルイ』『覚悟のススメ』など独自の世界観で漫画好きを魅了し続ける山口貴由の最新作です。
特撮美術サークルの一員だった29歳の主人公・実装時二矢は、サークルの葬式を機にかつてのサークル仲間たちと再会します。学生時代の思い出が語られる中で、特撮サークルに隠された壮絶な秘密が明かされていきます。
実相寺・中野・芹沢・切通などのキャラクター名は、特撮ファンには見覚えのあるものばかり。特撮文化への愛を随所にちりばめながら、読者は濃密な山口貴由ワールドへと導かれます。
単なる変身ヒーローへの愛の溢れた作品かと思いきや、事態は史実を巻き込みながら架空の戦後へとかつてないほど不穏さを増しながら重厚に描かれています。
これ描いて死ね

◎とよ田みのる最新作は、漫画家漫画!漫画の可能性をひたすらに探究した前作『金剛寺さんは面倒臭い』完結から1年8か月。待望の新作は、漫画を描く歓びも苦しみも、ぜぇ〜〜〜〜んぶを詰め込んだ、漫画愛に満ち溢れた漫画浪漫成長譚!漫画を愛する全ての人に届けッ!!東京の島しょ・伊豆王島に住む安海 相は、漫画が大好きな高校1年生。長年活動休止状態の憧れの漫画家☆野0先生がコミティアに出展することを知り、東京都区内に旅立つことに…そしてコミティア会場での思わぬ出会いが相の人生を変える!漫画家にはどうやったらなれるのか?知っているようで知らない漫画創作の世界。この物語は、その世界に続く’まんが道’へ踏み出していく少女の物語。漫画家を目指している人にも、かつて目指していた人にも、漫画が好きな人にはもちろん、漫画を毛嫌いしている人にも、漫画を読んだことがない人にだって絶対に読んでもらいたい漫画の漫画ッ!!ゲッサン本誌掲載時のカラーページを単行本でもカラーで再現!巻末には本作に実は深く関わる作品だった「週刊ビッグコミックスピリッツ」に掲載された読切、『デビュー』タイトル改めの『ロストワールド』を収録!
とよ田みのる版『まんが道』!
東京の離島に住む少女・安海は、自分の好きな作家が10年ぶりに新作を発表すると聞き、人生初の同人誌即売会へ。しかし、その漫画家の正体は学校では厳しい先生!? 衝撃の出会いを機に、安海は漫画を描く世界へ突入していきます。
漫画を描くことで溢れていく、作品への情熱と愛……。創作には生む苦しみもつきものですが、本作はなにかを作り出す楽しさが思う存分描かれていて、読んでいるだけで胸いっぱいの喜びが読者の心にもあふれてきます。
さよなら絵梨(全1巻完結)
映画表現と漫画表現が交錯する、単巻完結の異色作!
余命わずかの母親が亡くなる様子をスマホで撮影した主人公。その動画を編集して学校で上映し、不謹慎だと白い目で見られる中、同級生の絵梨と一緒に映画を作ることになります。
本作の特徴は「映画」という題材そのもの。同アングルの固定コマを繰り返して映画の長回し撮影のような漫画表現を実現していることや、衝撃的なラストの「映画らしさ」など作者の映画に対するこだわりを感じさせます。
藤本タツキは『チェンソーマン』2部が好評連載中で、アニメも続編が決まっています。まだまだ熱も覚めやらぬ藤本タツキの、映画愛にあふれた作品に酔いしれてみてください。
スーパーの裏でヤニ吸うふたり

【今夜もあなたとこの場所で。】社畜街道をひた走る、くたびれ中年男性の佐々木。彼のひそやかな癒しといえば、日ごろから愛煙する煙草と、行きつけのスーパーで働く女性店員 山田さんのにこやかな接客くらい。仕事に疲れたある夜、癒しを求めてスーパーに向かうが、目当ての山田さんはおらず、今どき煙草を吸える場所もなし…。意気消沈した佐々木に「ここなら吸える」と声をかけてきたのは、すこし奇抜な服装をした田山という女性だった――。(C)2022 Jinushi【特典画像付き】【付録ファイルについて】・「二日間読める」には付録ファイルは含まれておりません。・付録内容は購入済み商品ページよりご確認ください。※認証が求められた場合は、DMMアカウントの登録メールアドレスとログインパスワードを入力してください。※ご購入前に動作環境をご確認ください。
ラブコメ好き必読! 「次にくるマンガ大賞2022」のWeb漫画部門1位、「このマンガがすごい!」2023年オトコ編7位などで話題を呼んでいる作品です。
日々の仕事に疲れたサラリーマン・佐々木は、目つきが悪い店員・田山さんと時々一緒にタバコを吸います。表紙のやさぐれた雰囲気からは想像つかないほんわかした会話劇と、佐々木のフェティッシュな描写に萌えさせられます。スーパーの店員とお客という絶妙な距離感から、二人の間に少しずつ繋がりが生まれていく様子をローテンションに描いた作品です。
タコピーの原罪(全2巻完結)
2022年に出た中でも指折りの傑作漫画!
地球にハッピーをもたらすためにハッピー星からやってきた宇宙人タコピーが、地球で出会った少女・しずかを幸せにしようと奔走します。しずかが自殺したことでタコピーがタイムループを始める1話の展開に、発表当初は大きな話題を呼びました。
彼女を助けるためにタコピーはさまざまなアプローチを試みますが、しずかの置かれた環境はあまりにも壮絶で、彼女の運命はそうそう変えることができません。苦闘の果てにタコピーが選んだ選択とは?
本作は無料連載の段階からSNSで大きな話題を呼んでいて、『このマンガがすごい!』2023第3位にもランクインしました。
差し挟まれる広角の見開き、水滴の流麗な線、表情の付け方にいたるまで、新しい漫画表現を味わいたい方におすすめです。
天幕のジャードゥーガル
2023年の「このマンガがすごい!」オンナ編第1位の超話題作!
舞台は13世紀の中央アジア。奴隷としてイスラム教徒の学者の家に預けられた主人公・シタラの過酷な運命を描きます。チンギス・ハンのモンゴル軍に故郷を破壊されたシタラは、自らの「知」を武器にモンゴルへ復讐していくことを決意します。
当時の中央アジアの文化を個性的な絵柄で表現しているのが魅力の本作。読んでいるとどこか遠いイスラム世界が身近に感じられるようになります。帝国に虐げられながらも自ら抗おうとする女性たちの姿が生き生きと描かれており、読者の心を揺さぶります。力強く生きるキャラクターの姿に、勇気をもらいたい方におすすめです。
光が死んだ夏
新進気鋭の作家による、最新の思春期田舎ホラーです。
行方不明だった友人が無事に帰ってきたが、中身がもはや本人ではなくなっている……。大切な人が「何か」に入れ替わる、古典的な異譚ですが、本作は主人公と「何か」との歪な関係に強くフォーカスが当たっているのが見事です。
作中で描かれる「怪異」の描写は、漫画としてのホラー表現を更新するかのような斬新なものばかり。上質なホラー漫画としてもオススメできます。描き込まれた陰影と思春期の繊細な心の動き、2巻以降も加速する展開に目が離せません。
歴代のマンガ大賞受賞作品
今年のノミネート作品だけでなく、歴代の「マンガ大賞」受賞作品3作品もご紹介します。2020年〜2022年の直近3年に大賞受賞した作品も併せてお楽しみください。
ダーウィン事変

テロ組織「動物解放同盟(ALA)」が生物科学研究所を襲撃した際、妊娠しているメスのチンパンジーが保護された。彼女から生まれたのは、半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」チャーリーだった。チャーリーは人間の両親のもとで15年育てられ、高校に入学することに。そこでチャーリーは、頭脳明晰だが「陰キャ」と揶揄されるルーシーと出会う。「テロ」「炎上」「差別」……ヒトが抱える問題に、「ヒト以外」のチャーリーが、ルーシーとともに向き合うヒューマン&ノン・ヒューマンドラマ。作品集『パンティストッキングのような空の下』が「このマンガがすごい!」2017(宝島社)のオトコ編第4位にランクインし、話題になった漫画家・うめざわしゅんによる連載作品、開幕!
本質を突く言葉と小気味良いアクション! 人間とチンパンジーの間の子供である「ヒューマンジー」チャーリーが、さまざまな社会問題と直面していくSFドラマです。2022年の「マンガ大賞」を受賞しました。
ビーガンや過激な動物愛護団体の問題が、人間ではないチャーリーと出会ったときどのような反応をするのか。「人間だから」という線引きが成立しない状況で、社会のルールや倫理が揺らぐ様はSFならではの面白さに満ちています。
洋画のようなアクションと、世の中の本質を突く言葉が読者を引き込みます。壮大なスケールの物語と、登場人物たちの心理描写を担保する表情の描き方も魅力。漫画のうまさにうならせること間違いなし!
葬送のフリーレン
勇者一行が魔王を倒した数十年後からはじまる、「その後」を描いた作品です。2021年の「マンガ大賞」を受賞しました。
長い寿命を持つエルフの旅に、勇者の姿はすでにありません。魔王退治の場所を再び訪れる旅の中で、フリーレンはかつての仲間たちとの思い出をふり返っていきます。
勇者たちと挑んだ魔王討伐の戦いは省略され、当時の旅の詳細は描かれません。しかし、その不在にこそ不思議とリアリティが醸成されています。旅の道中に新しい仲間・新しい人間関係が築かれていくのも魅力で、冒険漫画におけるヒューマンドラマを味わいたい方におすすめです。
ブルーピリオド
アニメ化もされた芸大青春漫画! 2020年の「マンガ大賞」を受賞しました。
将来を渇望された学生生活を送る主人公・矢口八虎は、偶然見かけた絵画の虜になり、絵画の世界に足を踏み入れます。初心者でありながら、絵を描いていくうちに自分でも気づけなかった「自分」に気づいていく成長ドラマに胸が熱くなります。
編集部のおすすめは10巻以降。最新巻では、美大入学後の異世界じみた芸術世界のなかでの苦闘、課題に追われながらもきらめく様子が描かれます。今後も目が離せない。
終わりに
「マンガ大賞」作品特集はいかがでしたか? どれも現在の漫画文化を体現する最新の漫画表現で描かれた作品です。二次選考の結果は2023年の3月中~下旬の授賞式をもって発表予定とのこと。発表までノミネート作品や過去の受賞作を読んでみてください。
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